家庭医療理論

【家庭医療】複雑困難事例のケア

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日常診療で出会う,「もやもやした症例」
家庭医療の世界では「複雑困難事例」と呼ばれ,家庭医のコアコンピテンシーの一つで,腕の見せ所です.
「困ったなー」と思った次の一歩を踏み出すことを目標に「複雑困難事例のケア」についてまとめました.
♦目次♦

①なぜ,その事例は困難なのか?
②困難をきたす複雑性の状態は?
③ComplexだなChaosだな、、と思えば「どこが複雑」なのかを評価する
④見えた複雑性,介入すべき点に介入する
⑤振り返る,評価する
①なぜ,その事例は困難なのか?
 ★患者要因だけでなく,医師要因と環境要因も影響している
♦困難事例の要因
  医療者要因(特定の困難な状態への苦手意識や偏見や不寛容,悪い精神状態や身体状態,知識不足,コミュニケーションスキル不足)
  環境要因(時間的成約,病院ルール,地域性など)
  患者要因(感情,希望,解釈,影響,性格,コンテクスト,Bio-Psycho-Socialな問題)
   1)医学的複雑性が高い
   2)社会経済的要因が医学的問題を悪化させている場合
   3)精神疾患が医学的問題を悪化させている場合
   4)患者の行動と性格傾向に逸脱がある場合

 

 


②困難をきたす複雑性の状態は?
 ★解決出来る問題なのか?解決できない問題なのか?
♦クレビンフレームワーク(Stumbergらの分類)
Simple:簡単なプロトコールやガイドラインに従えば解決できる問題
 例)合併症のない狭心症にもっとも効果のある処方を探す.
Complicated:いくつかのSimpleな問題が入り組み,明確なプロトコールが存在しない問題
 例)狭心症,高血圧,不整脈,骨粗鬆症,うつ病をもつ患者でもっとも費用対効果のある治療法を選ぶ.
Complex:Complicatedな問題に,さらに心理社会的問題など,個別性の高い要因が加わり一般化が困難な問題
 例)社会的弱者層の患者で,狭心症,糖尿病,うつ病があり,アルコール問題,法的問題,家族問題を抱えている患者に対するもっともよいケアは何かを考える.
Chaos:コントロール不可能な問題が多数あり,それらが無秩序に絡み合っている状況
 例)僻地の患者で社会的に孤立しており,法的・家族的問題を抱え,狭心症,糖尿病,慢性腎不全,うつ病があり,アルコール問題の悪化により生じた危機的状況をどうマネージメントするかを考える.
Complex,Chaosな問題は安定化(Stabilize)することを目標とする
→複雑性を語るときに共通言語として使う.「これはComplexですね,安定化が必要です.」

 

 


③ComplexだなChaosだな、、と思えば「どこが複雑」なのかを評価する
★症例を俯瞰し,介入が必要な点を「見える化」する
♦PCAM(Pacient Centered Assessment Method)
 プライマリ・ケアセッティングでの複雑性の評価尺度としてMCAMをVersion upして作られた
 チェックリストは共有できるし良い.
 次に同様の問題があったときにチームメンバーで共有言語として使用できる.
PCAM(Pacient Centered Assessment Method)
〈通常のケアを行う〉
〈注意深く観察〉
〈行動計画を立てる〉
〈迅速に行動を開始〉
【健康問題】
1.身体的な健康問題について,はっきりとしない症状,問題(リスクを含む)のためにさらなる精査を必要とするか?
不明確な問題は特に見られないか,すでに精査されている.
軽度の身体症状,健康問題を有するが,日常的には支障がないか,当事者は気づいていない.
中度〜重度な症状,問題があり,日常的に支障をきたしている.
重篤な症状があり,日常に膨大な影響を与えている.
2.身体的健康問題によって精神的幸福感が損なわれているか?
そのようなことはみられない.
「うんざりする」「楽しみがない」など,軽度の影響がみられている.
中等度から重度な影響があり,日常生活の楽しみが妨げられている.
重篤な影響が出ており,日常生活が妨げられている.
3.生活スタイルや行動面の問題が身体的もしくは精神的な健康に影響を与えているか?(アルコール,薬物,食事,運動など)
そのようなことはみられない.
健康状態を悪化しうる関連が,ある程度みられる.
中等度から重度な影響があり,日常生活の楽しみが妨げられている.
重篤な影響が出ており,日常生活が妨げられている.
4.その他に精神状態に影響を及ぼすことが挙げられるか?また,それらはどの程度,影響を及ぼしているか?
そのようなことはみられない.
軽度の問題はあるが,日常生活に影響はない.
中等度から重度な影響があり,日常生活の楽しみが妨げられている.
日常生活の多くに影響を及ぼす重篤な問題がみられる.
【住居・社会環境】
1.住まいの環境は安全面,安定面においてどのような状況か?(家庭内暴力,治安,隣人のいやがらせなど)
長らく安定しており,安心安全の点で特に問題はみられない.
安全かつ安定しているが,部分的に不調和がみられる.
安全,安定の面で疑問が残る.
安全ではなく,安定していない.
2.日常の活動が健康問題に影響を与えているか?(失業もしくはその懸念,職業,介護,その他)
特に問題は見られず,日常の活動が有益と言える.
全般的な不安はあるが,日常の活動と健康問題に関連はみられない.
ときに抑うつ気分になったり,ストレスを受けたりする.
日常の活動が精神状態に重篤な影響を与えている.
3.社会的ネットワークの状況は?(家族,仕事,友人)
社会ネットワークの参加状況は良好である.
社会的ネットワークに十分参加できている.
社会的に孤立した状態もみられ,関わりは限定的である.
社会参加はほぼ無く,社会的に孤立した状態である.
4.経済的状況は?(医療費の支払いなど)
経済収入は安定,貯蓄も十分あり,問題はみられていない.
経済収入は安定しているが,いくつかの課題を抱えている.
経済収入は安定しておらず,貯蓄にも問題がみられる.
経済収入は不安定で貯蓄は厳しく,緊急の課題を抱えている.
【ヘルスリテラシー・コミュニケーション】
1.現在の健康状態(症状やリスク因子)について,もしくは健康を維持するために必要なことについて理解できているか
健康状況について十分に理解できており,健康維持のために取り組めている.もしくはよりよい取り組みに意欲を示す.
健康状況について十分に理解できているが,現時点で健康維持のための助言に従えるとは言えない.
理解は十分ではなく,そのためによりよい選択に支障をきたしている.
理解は乏しく,そのことが健康維持のために重大な影響を及ぼしている.
2.当事者はヘルスケアの議論に参与できるか?(言語,難聴,失語,認知症,アルコールなど)
問題なくコミュニケーションを取ることができ,障壁は認められない.
多少の障壁がみられることもあるが,コミュニケーションは十分に取ることが出来る.
中程度の障壁があり,もしくは障壁はないがコミュニケーション上の困難が見られる.
重篤な障壁があり,コミュニケーションも重篤な困難を要する
【サービスの調整】
1.現在関与しているサービス以外に必要なサービス,部署があるか
現時点でその他のケアやサービスは特に必要ない.
ケアやサービスは適切で,十分である.
ケアやサービスは適切であるが,十分とはいえない.
ケアやサービスは適切ではなく,さらなる介入を必要としている.
2.このケースに置いてサービスはうまく調整されているか?
すべてのケアやサービスは適切で,十分に調整されている.
必要なケアやサービスは適切で十分に調整されている.
必要なケアやサービスは適切であるが,調整にはいくつかの障壁を伴う.
必要なケアやサービスが抜け落ち,断片化している.
♦INTERMED score
内科および外科患者(主として入院患者)の評価や治療計画に必要なBPSアプローチを反映させるために,de Jongeらにより開発された多次元評価尺度
20項目×3の60点満点で評価される
日本語版はこちらから

 

 


④見えた複雑性,介入すべき点に介入する
♦手段1) 疾患,症状のマネジメント
・すべての健康問題をリストアップ,優先順位を考える
・現状を正しく評価する
 例: Treatable dementiaはないか?
  予後予測,疼痛の評価(PAINADスケール),他科との連携など
 PAINADスケール(1-3:軽度の痛み,4-6: 中等度の痛み,7-10: 高度の痛み)
0
1
2
呼吸
正常
短期間の
努力性呼吸,過換気
長期間の
努力性呼吸,過換気
チェーンストーク呼吸
ネガティブな発語
なし
随時のうめき声
小声での
ネガティブな発語
繰り返す大声
大声でうめき苦しむ
泣く
顔の表情
無表情/笑顔
悲しい,怯えている
不機嫌な顔
苦悶様
ボディランゲージ
リラックス状態
緊張,苦しむ
そわそわしている
硬直,握った拳
引き上げた膝
押しのける,殴りかかる
慰めやすさ
慰める必要なし
声掛けで安心する
慰めることが困難
♦手段2)多職種チームの形成, コミュニケーション
人のつながりを活かしたアプローチを .情報の共有が多職種連携の第一歩!!
・複雑である状況をチームメンバーに説明・共有する
 →情報の収集と評価やケアプランの作成などにおいて,多職種による多面的なアプローチを組織する
 →病院外のリソースも意識
  例) 医療保健福祉,行政機関のスタッフを知ることでアイディアが出せる
   インフォーマルなリソース(ボランティア,趣味や活動の団体,特殊技能をもつ人)
・ケアのゴールと最悪の事態を共有する
 →治癒?ADL改善?ハームリダクション?家族やスタッフの負担軽減?本人の人生の目標(孫に会うなど)?安定化?
  例) 医師が解決を目指しているわけではないのに,MSWや看護師が解決しようとしていると,意見がずれてしまう
   「この先生は何もやってくれないな,,」
 →可視化しやすい小さな目標を立て,評価期間を短く設定し,PDCAサイクルを回す.
  あとは皆専門職だから,目標が決まれば勝手に進んでいく
 ポイント1 根本的解決ではなく,日常的な機能に支障がでない程度に安定化させることを目指す
 ポイント2 布石を打ち,今後起こりうる事態に備える
 ポイント3 とにかく見捨てず(Nonabandonment),継続的に関わりを持つ
 ポイント4 チームで取り組むことを心がけ,援助者としてのバランスを保つ
 ポイント5 網羅的な評価ツールを用いて,事例全体を俯瞰する
♦手段3)家族とのコミュニケーション
ナラティブに寄り添う
・家族の介護への思いを理解する
 例) 家族図を書く
・看取りに向け,家族の不安に寄り添う
 例) 昔話(「お父さんはどんな人だったんですか?」)
   人を看取った経験(「お母さんの時はどんな最後だったんですか?」)
・PCCM(Patient centered clinical method)の実践
♦手段4)医者自身の感情と向き合う
・つらいのは自分一人でないという意識をもつ
  →医療者は「問題解決」ができないと不全感に陥る事がある.
   安定化を目指して,頑張りすぎず,諦めない姿勢を
・自身の陰性感情を振り返る
・最悪のことと最高のことを想定する.
 最高でもない最低でもない,そこに自分の感情のコンフリクトがある

 

 


⑤振り返る,評価する
★振り返ること
・どのように「安定化できたか」
・時系列を追う毎に複雑度がどう変化していったか?
・チームで話し合い,それらしい落としどこを見つけるに至った過程
・安定化を通じて,困難事例から見えたSDHの問題
 →うまくコミットできれば,次回同様の症例ではComplicatedになるかもしれない.
・チームで振り返りを行い,教訓を引き出しつつ,チームメンバーの心理的・感情的なサポートを行う(Significant event analysis(SEA)など)

 

 


まとめ
・複雑だな,,と思ったらとりあえずPCAM等で評価
・PCAMで評価して分かった複雑性を共有し,多職種連携の第一歩を

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