ケアの共創(co-creation):多疾患併存状態にある患者さんとのコミュニケーションを改善し、複雑なニーズに答えるために

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多疾患併存状態にある患者さんのケアはなぜ難しいか?

多疾患併存状態にある患者は、多大な治療負担を背負っており、複雑なケアニーズを持つ。一方で、現在の医療システムは単一疾患志向であるため、複数の個々の疾患に対するガイドラインを参照しなければならず、これらの医療ニーズに応えることが難しい。[1]多疾患併存患者の診察は、10〜20分続くことが多くGPの時間的負担となることが多い。またこの時間のほとんどは、複数の慢性疾患の医学的に関連するすべての側面を効率的に話し合うために使用され[2]、患者の私生活、家族、友人への影響などの、患者にとっての重要な側面はやや見落とされがちである[3]。

一方、多疾患併存状態にある患者に対して、複数の医療従事者が関与してしまうと、ケア管理はより困難となり、また患者と医療従事者とのコミュニケーションの質は疾患の数が増えるにつれて低下し[4]、コミュニケーション不足はケアの断片化につながる可能性がある。そして、多くの通院・日常生活での注意事項のため治療負担が増大する。このような負担はしばしば患者の転帰に悪影響を及ぼし、死亡リスクの増大や医療利用および医療費の増加 [5] 、そして生活の質や幸福感・ケアに対する満足度の低下をきたす[6] 。

これらの多疾患併存患者の背景に対して、患者中心のケアが一つの解決策になりうる可能性がある。患者中心のケアは、「個々の患者の好み、ニーズ、価値観を尊重し、それに応えるケアを提供し、患者の価値観がすべての臨床的決定の指針となるようにすること」と定義されている[7]。患者中心のケアは様々なアウトカムが報告されており、2017年に行われたsystematic review[8]では、患者中心性が高い組織と、患者の満足度やWell-being向上に関連が示唆された。多疾患併存患者に対しても同様に、患者中心のケアが有効であると推測される。

本稿では、以下の参考文献を参照しながら、この患者中心のケアに関連したアプローチである「ケアの共創」を紹介する。

参考文献)

Kuipers SJ, Cramm JM, Nieboer AP. The importance of patient-centered care and co-creation of care for satisfaction with care and physical and social well-being of patients with multi-morbidity in the primary care setting. BMC Health Serv Res. 2019 Jan 8;19(1):13. doi: 10.1186/s12913-018-3818-y. PMID: 30621688; PMCID: PMC6323728.

The importance of patient-centered care and co-creation of care for satisfaction with care and physical and social well-being of patients with multi-morbidity in the primary care setting - BMC Health Services Research
Background Patients with multi-morbidity have complex care needs that often make healthcare delivery difficult and costl...

ケアの共創とは

ケアの共創(co-creation)とは、患者と医療者の間に生産的な相互作用を確立することである [9]。生産的な相互作用とは、タイムリーで正確、かつ問題解決のためのコミュニケーション方法と定義されている。ケアの共創は、患者のエンパワーメント・医療の質向上・医療資源の効果的な利用と関連しており、患者中心の医療を実現するための重要な手段である。

この様な生産的な相互関係を確立するためには、以下の3つの次元が特に重要である [10]。

知識の共有

1つ目が知識の共有である。医療者と患者の専門知識の違い・「思考の世界」の違いが、効果的なコミュニケーション能力を阻害し、その結果として共同作業のプロセスを台無しにする可能性がある。医療者の情報提供並びに、患者の専門知識(患者自身の嗜好や考え方・行動・歴史を含む)の共有が重要となる。

目標の共有

2つ目の次元は、目標の共有である。特に、相互依存性の高いタスク設定において特に重要であることが確認されていおり、多疾患併存状態の複雑なニーズを抱える患者に対しては、Well-beingや生活のルーチンを保つことなど、より生活に視点をシフトしたゴールが重要となる。

相互尊重

3つ目の次元は、相互尊重である。相互尊重があると、患者と医療者の間に信頼関係が築かれやすくなる。この信頼関係をベースとして、患者は自身の症状や悩みを率直に話しやすくなり、医療者も適切な治療方針を立てやすくなることでコミュニケーションの円滑化と患者のエンパワーメントが期待できる。

プライマリ・ケアにおける、ケアの共創の可能性

Kuipersら[11]が、プライマリケアにおける多疾患併存状態にある患者に対する患者中心ケアと、ケアの共同創造、ケアに対する満足度やWell-beingの関係を明らかにすることを目的とした研究を行った。この研究は、オランダの多疾患併存状態患者に対してのアンケート調査であり、患者中心性はPCPC [12]を用いて、Well-beingはSPF-ILs[13]を用いて、ケアの共創は関係的共同生産尺度を用いて測定した

関係的共同生産尺度 [14]

7つの項目からなり、多疾患を有する患者とそれを治療する医療従事者(医師、看護師、専門医)との間のコミュニケーションの4つの側面(タイムリー、正確、頻繁、問題解決)と関係の3つの側面(目標の共有、知識の共有、相互尊重)を測定する。 患者の回答は5段階の尺度で測定され、1(全くない)から5(常にある)まであり、得点が高いほどケアの共同作成が良好であることを示す。

 

この研究の中で、患者中心のケアとケアの共創は、プライマリ・ケアにおける多疾患併存患者のケアに対する満足度、身体的・社会的Well-beingと正の関連が示された。この結果は、多疾患併存を抱える患者のニーズに合わせたケアの提供の重要性と、患者アウトカムの改善における患者中心ケアとケアの共創の潜在的な利益を強調している。

また、この研究に続く縦断研究では、ケアの共創は時間の経過とともに大幅に改善した。[15]特に頻繁なコミュニケーションと、タイムリーなコミュニケーションが関連していた。これらのケアの共創の改善は、社会的幸福・身体的幸福・ケアの満足度と関連していた。

まとめ

多疾患併存患者は複雑なケアニーズを持ち、治療負担が大きい。現在の医療システムでは対応が難しく、短い診察時間や複数の医療従事者との連携不足が問題を悪化させる。患者中心のケアとケアの共創が解決策として期待されており、患者の好みやニーズを尊重することで満足度や幸福感が向上する。ケアの共創は、複雑性、不確実性、時間的制約を伴う状況に特に適しており、多重疾患の患者へのケア提供の改善に価値がある可能性がある。

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