統合ケアとは
統合ケアとは、アウトカム(臨床、満足度、効率)を向上させるために、ヘルスケア システム(急性期医療、一次医療、専門医療)を他の福祉サービス システム(長期ケア、教育、職業サービス、住宅サービスなど)と接続する探求である。Leutz (1999)
- 多くの高所得国では、専門化、分化、細分化、分権化の結果、保健サービスと社会サービスの供給が断片化しているため、サービスの統合が妨げられている。断片化により、最適とは言えないケア、重複によるコストの上昇、ケアの質の低下が生じている。
断片化による問題

The Problem of Fragmentation and the Need for Integrative Solutions
- 医療制度の分断は、医療提供の非効率、非効果、不平等を招く。
- 人やシステム全体を考慮することなく、個々の病気に焦点を当てることは、医療の質の低下を招く。
- 分断された医療へのアプローチは、情報の統合と優先順位付けに失敗し、情報を知識や知恵に変える能力を妨げる。
プライマリ・ケアと統合ケア

Understanding integrated care: a comprehensive conceptual framework based on the integrative functions of primary care
Primary care has a central role in integrating care within a health system. However, conceptual ambiguity regarding integrated care hampers a systematic underst...
プライマリ・ケアの統合的機能
- 1978 年のアルマ・アタ宣言で述べられているプライマリ・ケアはの概念には、ニーズに基づく公平性、国民が通常遭遇する最初のレベルのケア、政治運動、サービス提供を支える哲学、地域社会の問題に対処する幅広い部門間の協力などが、「広範な統合機能と目標を含む広範な公衆衛生政策」が含まれる。
- プライマリケアの機能 (First contact care、継続的、包括的、および調整されたケア)が連携することで、プライマリケアはケアを改善し統合するための出発点となる。
- First contact care: 人々が医療を求める新たな問題や問題の新たなエピソードごとに、サービスへのアクセスと利用を意味する。
- 継続的ケア: 定期的なケアの有無に関係なく、長期にわたって定期的にケアを行うこと。
- 包括的なケア:国民の最もまれな問題を除くあらゆる種類のニーズに対する幅広いサービスの利用可能性と、その適切な提供
- 調整されたケア: 患者が身体的、精神的、社会的なあらゆる健康上の問題に対して適切なケアを受けられるように、医療イベントとサービスを連携させること
- 最も顕著な機能である「ファーストコンタクト」は、プライマリ・ケアに医療システムの中心的な地位を与えている。これは、新たな問題に対して、いつでも、利用者のすぐそばで、直接アクセスできる外来ケアのことである。第二の機能である「継続性」とは、人々のニーズや嗜好に対応した、長期にわたる一貫したケアを経験することである。継続性は人々が経験するものであるため、ここでは個人的な経験が不可欠である。第三の機能である「包括性」とは、サービスを受ける人々のニーズに合わせたサービスの数々を指す。これらのサービスには、治療、リハビリ、支持ケア、健康増進、疾病予防が含まれる。4つ目の「調整機能」とは、他の医療提供者のサービスが必要な場合に、水平的・垂直的に人々を紹介することである。
- これらの機能を総合すると、プライマリ・ケアはケアの調整と統合において中心的な役割を果たすことになる。
「個人」と「集団」へのアプローチと統合ケア
- 紹介してきたプライマリ・ケアの機能的概念に内包されているのは、「個人」と「集団」の健康に焦点をあてた考え方である。
- 「個人へのアプローチ」は、健康の生物学的・心理社会的視点を反映したものである。病気は同時に医学的、心理学的、社会的問題であることを認め、医学的問題と社会的問題のギャップを埋めるものである。
- 「集団へのアプローチ」は、定義された集団におけるすべての健康関連ニーズに対応しようとするものである。この考え方は、集団における健康(および幸福)の公平な配分を改善するために、集団のニーズと健康特性(政治的、経済的、社会的、環境的特性を含む)に基づいてサービスを提供することを目指す。
疾患に焦点を当てたパラダイムと統合ケア
- 現代の多くは医療は疾病に焦点を当てたパラダイム(Bio medical model)に基づいており、健康と幸福の根本的な原因を軽視している側面がある。慢性的で重複した健康問題に苦しむ患者が増加しているため、このような見方は、医学的問題と社会的問題のギャップを埋める「個人へのアプローチ」において、また定義された集団におけるすべての健康関連ニーズに対応しようとする「集団へのアプローチ」において、機能不全に陥っている。
- プライマリ・ケアにおいて、「個人」と「集団」の健康に焦点を当て、他の医療提供者のサービスが必要な場合に、水平的・垂直的に人々を紹介する統合ケアが求められている。
- 「個人」と「集団」の健康に焦点を当てた見方は、ほとんどの健康と社会的問題が相互に関連していることを認識するために不可欠である。このことは、統合ケアの文脈では特に重要である。
垂直統合と水平統合
垂直統合
- 医療制度における現在の専門化(疾病に焦点を当てた医療介入など)は、プライマリ・ケアの全体的な視点を脅かすサービスの断片化を引き起こしている 。
- この専門化と分断化のに立ち向かうのが垂直統合である。垂直統合は、疾病は異なる(垂直的な)専門化レベルで治療されるという考え方に関連している(すなわち、疾病に焦点を当てた見方)
- 例えば、プライマリー・ケアと二次・三次医療の統合など、「垂直統合」とは、様々なサービス分野を一つの「統合された組織」で行う事を指す
水平統合
- これとは反対に水平統合は、医療・福祉・行政の連携など、ピアベース(一次医療の中)でセクターを超えたケアの連携により、人々や集団の全体的な健康状態を改善することである。プライマリ・ケアと公衆衛生は、全体的な健康を改善するための水平統合を特徴としている。
ケアの「統合」の種類
- 統合が起こりうる3つのレベル、すなわちマクロ(組織間)レベル、メゾ(専門職)レベル、ミクロ(臨床)レベルを中心に構成されている。
マクロレベル:組織間の統合
- 医療システムにおける組織間の統合は、サービスを提供する「集団」のニーズを満たすために、人々のニーズをシステムの中心に据える全体的なアプローチである。「集団」のニーズに合うように、医療システムの構造、プロセス、技術をオーダーメイドで組み合わせることが必要である
- 効率、ケアの質、生活の質、消費者の満足度を高めると考えられている
メゾレベル:専門職の統合
- 専門職の統合は、定義された集団に包括的な継続的ケアを提供するために、共有された能力、役割、責任、説明責任に基づく専門職間のパートナーシップを指す。専門的統合と組織的統合からなる。
- プライマリ・ケアにおける専門職の統合においては、共有された言語の欠如や、治療パラダイムの相違は、専門家の統合を困難にする可能性がある。このような困難を克服するためには、役割、責任、利他主義、倫理、尊重、コミュニケーションの原則を明確にすることが重要である。
- 課題は、説明責任のある起業家的専門家を刺激すると同時に、異なる専門的な癒しのパラダイムに対して十分な自由を残すことである。
専門的統合(Professional integration )
- 機関や組織内及び組織間のヘルスケア専門家による協働
- 集団実践であり,契約または戦略的提携で実施される
- 例:退院支援を医師,看護師,理学療法士,ケアマネージャーなどが協働して行う
組織的統合(Organisational integration)
- 独立した医療機関同士のネットワークの形成や合併,契約,戦略的提携
- 資金のプール,業務歩合制といった公的私的な契約的,協調的な統合
- 例:高齢独居の認知症患者の徘徊に対して,病院・診療所と
ミクロレベル:臨床での統合
- 臨床場面での統合は、個人患者のケアに関する様々なスタッフの機能や活動が、システム内の様々な専門職、組織、部門の境界を越えて調整される程度を指す。例:臨床場面での専門職間のケア提供における連携など。
- 実際には、臨床場面での統合は人に焦点を当てたアプローチではなく、疾患に焦点を当てたアプローチになりがちである。例えば、臨床統合のほとんどのツールや手段は、臨床ガイドラインなど、疾患志向の狭い医療介入に基づいている。特に慢性多疾患など、より広範な健康背景が関与する場合にはガイドラインの適応は難しい。
- これらの問題に対応するため、臨床的統合には、特定の症状だけに焦点を当てるのではなく、その人の全体的な幸福を向上させるために、個人に焦点を当てた視点が必要である。提供されるサービスがその人のニーズに合うように、個人のニーズを適切に考慮しなければならない。これはまた、ケアプロセスにおける共同創造者としての患者という重要な側面を包含している。臨床管理における共通基盤を見出すために、専門家と患者の間で責任を共有するのである。可能な限り、患者自身がケアを調整することで、患者のニーズに重点を置くべきである。
- 言い換えれば、パーソン・フォーカスト・ケアの視点に基づく臨床統合は、個人レベルでの継続的、包括的、協調的なサービス提供を促進することができる。
マクロ、メゾ、ミクロレベルの連携:機能的統合
- まとめると、機能的統合は、システム(マクロレベル)の中で、臨床的統合(ミクロレベル)、専門的統合、組織的統合(メゾレベル)の次元を支援し、結びつけるものである。
- 機能的統合は、システムのユニットにおける財務管理,人材,戦略的計画,情報管理,品質改良などのサポート機能の調整などにより臨床、専門職、組織、システムの統合をサポートすることで、システムに最大の全体的価値を付加する仕組みを指す。
- 例:一ヵ所集中や機能標準化ではなく,お互いの機能やルールを理解しパートナーシップを構築
- 機能統合の最も重要な側面のひとつは、サービス提供の主要なプロセス(臨床統合)を中心に、財務、管理、情報システムを連携させることである 。これらの連携システムは、政策決定者(システムの統合)、管理者(組織の統合)、専門家(専門職の統合)、患者(臨床の統合)が(セクター間の)パートナーシップにおいて説明責任を果たし、意思決定を共有することを支援し、調整することができる。
マクロ、メゾ、ミクロレベルの連携:規範的統合
規範的統合は、統合システムのすべてのレベルを結びつける共通の参照枠を提供することができる。規範的統合は以下のように定義される:組織、専門家グループ、個人の間で、共通の参照枠(すなわち、共有された使命、ビジョン、価値観、文化)を開発し、維持すること。
- 規範的統合は、組織,専門家集団,個人の間での価値観,文化,視点の共有により、システムのミクロ、メゾ、マクロの各レベルにまたがる連結性を実現する。
- 例:地域包括ケアシステムの構築において,システム的・組織的・専門的・機能的・臨床的統合を経て地域のベクトルが揃う
- 統合は、専門家の行動や態度によって形成され、それに基づくところが大きい [34, 41, 59]。個人、専門家、組織間で共有された価値観、文化、目標に基づく非公式な調整メカニズムが不可欠であると考えられている。しすのため、セクター間の協力を促進し、統合システムのすべてのレベル間の一貫性を確保する規範的統合は不可欠である。
- 地域住民のニーズを反映した明確な使命とビジョンが重要
- 相互に共有された目標と統合的な文化は、統合システムのすべてのレベルにおいて必要であり、リーダーシップによって創造し、リーダーシップが統合的アプローチの普及に重要な役割を果たす。
統合の強度

Five laws for integrating medical and social services: lessons from the United States and the United Kingdom - PubMed
Because persons with disabilities (PWDs) use health and social services extensively, both the United States and the United Kingdom have begun to integrate care ...
- 統合の強度は、分離している状態から完全に統合した状態までの連続体(スペクトラム)として表現される。
- Fragmentation→Linkage→Coordination→Full integration Fragmentation
- 市場における商取引と同レベルで分断された状態,Integrationが最も低いレベル
- 日常的な相互理解と必要に応じて他団体に照会して回答が得られるレベル
- 顔のみえる関係を日常的に作る。日本の地域保健医療の分野でいわれる「連携が大事」と言われるはこのレベル
- 個々の個人・団体は個々に調整の責任をもち,調整の場をもっているが特定の状況については協働するレベル
- 定期的な困難事例検討会や地域ケア会議を定期的に有効に実施しているようなレベル
- 利用者の必要なサービスをオーダーメイド的に作っているレベル
- 統合の強度が高まれば良いというものではなく、メリット・デメリットがある。
- 統合の強度は、意思決定の柔軟さとコミットメントの強さにより統合の度合いが示される。統合できてない場合は、組織感のコミットメントが低い一方で、意思決定の柔軟性が高いというメリットがある。
- プライマリ・ケアにおいては、ほとんど場合linkageやcoordinationで十分である。複雑性が高い場合や緊急性が高い場合などはfull integrationの方がうまくいくかもしれない。
4種類の統合の融合
- マクロレベルのシステム統合では、集団のニーズを満たすために、個人のニーズをシステムの中心に据える。というのも、システム統合には、集団の中で個人にとって最善であることが、集団にとっても最善であるという考え方が組み込まれているからである。このホリスティックな視点は、個人と集団の全体的な健康と幸福を向上させるために、水平方向と垂直方向の同時統合を必要とする。
- 保健システムにおけるサービスの分断に対抗するためには、垂直的統合と水平的統合の両方が必要である 。垂直的・水平的統合を取り入れることで、ケアの連続体全体にわたって、継続的・包括的・協調的なサービスの提供を改善することができる。つまり、システムの効率と質を向上させるためには、従来の組織や専門職の垣根を越えたパートナーシップが必要なのである
- 統合システムでは、このようなパートナーシップが**「治療」と「ケア」部門の境界を通過し、人々と集団に真の連続的ケアを提供することができる**。図はシステム統合の基礎となる「人を中心としたケア」と「集団を基盤としたケア」の視点を備えた統合医療システムを示している。これらは、水平方向(x軸)と垂直方向(y軸)の統合を同時に必要とするシステムの中で、指針となる原則である。
- 垂直統合・水平統合を区別することは重要である。これらの統合を達成するためには、それぞれ異なる手法が必要であり、変革やリーダーシップに関する異なる理論に基づいているからである NCBI – WWW Error Blocked Diagnostic

横軸:個人中心のケア↔ポピュラリー・ベースド・ケア
- プライマリ・ケアの核となる価値は、患者の健康と幸福の生物医学的、心理学的、社会的側面を統合することである。
- パーソン・フォーカスト・ケアとポピュレーション・ベースド・ケアの視点は、概念的枠組み全体を支える基盤となるものである。これらは、ケアの連続体全体にわたって、より良いサービスの連携を実現するための指針としての役割を果たす。プライマリ・ケアの統合的機能(ファーストコンタクト、継続的ケア、包括的ケア、連携ケア)は、統合ケアの次元に暗黙のうちに組み込まれている。
- したがって、私たちのフレームワークは、個人に焦点を当てた視点を中心とした同心円として視覚化されている。
- メゾレベルでの統合は、集団ベースのアプローチを強調し、定義された集団への継続的、包括的、協調的なサービス提供を促進するために、専門家と組織の統合を必要とする。
- ミクロレベルの臨床統合では、人に焦点を当てた視点が強調され、サービス利用者が継続的なケアを経験できるようにする。医療専門家は、提供されるサービスが(水平的にも垂直的にも)個人のニーズに合致するように、個人のニーズを適切に考慮しなければならない。このことは、他の医療提供者や組織からのサービスが必要な場合、メゾやマクロのレベルで統合が追求されることを意味する。
- 最後に、機能的統合と規範的統合は、ミクロ、メゾ、マクロの各レベルにまたがり、システム内の連結性を確保するものである。プライマリ・ケアと統合ケアの文献を統合し、全体像を描く概念的枠組みである。プライマリ・ケアの核となる価値は、健康と幸福の生物医学的、心理学的、社会的側面の統合であり、私たちの概念的枠組みでは、パーソン・フォーカスト・ケアとポピュレーション・ベースド・ケアとして表現されている
- 3つのアウトカムを設定(Population health,Cost&utilization,Experience of care)
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