医学的に説明のつかない症状(Medically Unexplained Symptoms)へのアプローチ④:4つのコンポーネント

プライマリケア・マネジメント

本稿は全4回からなるMedically Unexplained Symptoms(MUS)つまり、医学的に説明のつかない症状に関するレビューの第4回目です。

  1. MUSを抱える患者の体験
  2. MUSを診療する医療者の体験
  3. MUSへのアプローチ:4つのコンポーネント
  4. MUSを診療するために何を学ぶべきか?

複数のMUSに関するレビューを参考に構成されています。本稿が、膠着状態になりやすいMUS診療の、次の一歩を踏み出す手助けとなれば幸いです。適宜リンクを作成しているのでご参照ください。

第4回では、MUSを診療するために、下記の論文を参考にしながら、何を学ぶべきかを考察していきます。

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レジデントの苦悩と学ぶべきもの

診断はあくまでも道具であることを学ぶ

  • レジデントは自分が、MUSを抱える患者に何を正当に提供すべきかを理解するのに苦労する。この苦労の背景には、自分たちの経験の浅さが、「良い」医療を提供する能力を妨げているのではないかと心配がある。
  • レジデントが「良い」医療と医療は、Biomedicalモデルに基づく医療、つまり正確な診断の後に治療をするという医療を指していることが多い。
  • MUSをマネジメントするためには、この「良い」医療には常に明確な診断と治療が必要であるという価値観を捨てなければならない。

「診断は、そのプロセスに結論を与え、医師が良い仕事をしたことを正当化する。そして、診断がつかないということは自分たちが根本的に無能だからだと思わせる可能性がある

  • 診断は、「医師が良い仕事をしたという正当化」ではなく、「道具」なのであることを認識する必要がある。

振り返りを通じて不確実性を許容するスキルを高める

  • レジデントは、患者に「あなたは器質的あるいは身体的な問題を抱えているとは思えません」と言うのが心配で、いつ言えばいいのか、どのように持ち出せばいいのかに苦慮している。また、質の高い個人中心のケアと、強迫的で役に立たない確実性の要求とのバランスを見つけることは、多くのレジデントにとって習得が難しいスキルである。また、レジデントは感情的症状と身体的症状の関連性を説明するのに苦労する。
  • レジデントによってはMUSという不確実性の高い問題を引き受けるためのスキルと能力を身につけるには時間と成熟が必要である。
  • これらのスキルは、特定のモデルや方法を身につけるというよりも、内省的な経験を通じて習得されるものである。診察の観察を含め、これらの患者のケアを共有することが重要である。

内容からプロセスへのシフト

  • どの様な診療をするかという点から、どの様な診察のプロセスをするかという視点にシフトすることが可能であることを伝え、診察のプロセスを重要で「学習可能な」スキルとしてレジデントに理解させる必要がある。

家庭医・総合診療医がMUSに取り組むという事

  • MUS患者は、スティグマを抱えながら、困った症状とそれに伴う障害を管理するためのサポートを求めている。そんなMUS患者に対して、普段から患者との長期的な関係を持ち、患者のillnessを助長・維持する生物心理社会的要因をより包括的に理解しようとする家庭医は、MUS患者の適切なケアを促進する上で独自の立場にある。
  • MUS患者の効果的な治療には、指示的かつ断続的な治療ではなく、高度な協力と関与が必要であり、症状の説明は直接的な診断ではなく共に作成された意味に基づくものであるべきである。特に心理社会的な問題に焦点を当てた診察は、医師患者関係を基盤として、経験の解釈と意味の構築が行われる。
  • そして、これらの意味は、共感と傾聴のスキルを用いて粘り強いケアを提供し、「そこ」にい続けながら、継続性のある診療の中で、何度も再構成され変化していく。
  • これらの治療要素は、家庭医・GPとしての卓越性と非常に親和性が高い。

MUSを持つ患者のニーズに応える: 10 の重要なメッセージ by WONCA

  • 最後にWONCAのメンタルヘルス委員会が提示したMUS診療に関する10のガイダンスを簡単な注釈をつけて紹介する。
Addressing the needs of patients with medically unexplained symptoms: 10 key messages
  • 1〜3に関しては、第1回において、4〜10に関しては、第3回でMUSへの介入における4つのコンポーネントとして概説している。

  1. MUSは、現在も調査が続けられている診断仮説である
    • MUSは、単なる診断名ではなく、現在も調査が続けられている診断仮説である。MUSの特徴は、適切な医学的検査を行っても、明確な生物医学的原因が特定できない身体症状を指すことにある。この概念は、問題が未分化である中で、常に再評価が必要であることを示している。
  2. MUSは、重症度の連続体として捉えられる
    • MUSの重要な特徴の一つは、その症状が重症度の連続体として捉えられることである。つまり、MUSは軽度で一時的な症状から、重度の慢性的な障害を引き起こす症状まで、幅広い範囲をカバーしている。例えば、一過性の頭痛や疲労感から、長期にわたる慢性疼痛や機能障害まで、様々な症状がMUSの範疇に含まれる。この連続体の概念は、各患者の症状を個別に評価し、適切な治療アプローチを選択する上で重要である。
  3. 素因、誘発因子、持続因子を理解することは役立つ
    • またMUSの効果的な管理には、素因、誘発因子、持続因子を理解することが不可欠である。素因には、遺伝的要因や幼少期の経験などが含まれ、これらは個人のMUSへの脆弱性を高める可能性がある。誘発因子は、ストレスの多いライフイベントや急性の身体的illness、心理的トラウマなど、MUSの発症のきっかけとなる要素を指す。持続因子は、不適切な対処メカニズム、社会的孤立、継続的なストレスなど、症状を長期化させる要因である。これらの要素を総合的に評価することで、医療提供者は患者の状況をより深く理解し、個別化された効果的な治療計画を立てることができる。
  4. 広範な生物心理社会学的調査が必要
    • MUSの患者を理解するためには、生物学的要因だけでなく、心理的・社会的要因も含めた包括的な評価が不可欠である。例えば、慢性的な腹痛を訴える患者の場合、消化器系の検査だけでなく、ストレス要因や社会的サポートの状況なども評価する必要がある。
  5. 医師と患者のコミュニケーションは強力な治療薬である
    • 効果的なコミュニケーションは、MUS患者の治療において極めて重要である。傾聴と共感的理解を通じて、患者の不安や懸念を軽減し、信頼関係を構築することが可能となる。これは、第2回で詳しく解説されている「患者中心の医療」の核心的要素でもある。
  6. ターゲットを絞った具体的な説明を提供する
    • MUS患者に対しては、症状の原因や治療方針について、個々の患者の理解度や関心に合わせた説明が必要である。専門用語を避け、患者の日常生活に即した具体例を用いることで、理解を深めることができる。
  7. 安全で治療的な環境を作る
    • 患者が安心して症状や悩みを語れる環境を整えることが重要である。プライバシーの確保や、非判断的な態度で接することで、患者の心理的安全性を高めることができる。
  8. 症状の管理とセルフケアを目指す
    • MUSの完全な治癒は難しい場合が多いため、症状の管理とセルフケア能力の向上に焦点を当てる。例えば、ストレス管理技法やリラクセーション法の指導、生活習慣の改善サポートなどが有効である。
  9. 段階的なケアアプローチで積極的なケアを提供する
    • MUSへの対応は、症状の重症度や患者の状況に応じて段階的に行う必要がある。軽度の症状には基本的な自己管理支援から始め、必要に応じて専門的な介入を追加していく。この段階的アプローチは、過剰医療を避けつつ、必要な支援を提供する上で効果的である。
  10. 文化的能力を養う
    • MUSの表現や理解は文化によって大きく異なる。そのため、患者の文化的背景を理解し、それに配慮したケアを提供することが重要である。例えば、ある文化圏では身体症状を通じて精神的苦痛を表現することが一般的な場合がある。

 

 

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