患者がメンタルヘルスの助けを求める動機となるのは、恐怖感や不安感などの主観的な体験である。一方で、精神障害の研究は、生理学的反応や行動学的反応など、評価しやすい客観的尺度を重視する傾向がある。
本文では、この主観的感情体験を理解するための窓としてのメタ認知の概念を探求し、その重要性と応用を明らかにしようとした文献を元に、メタ認知の実臨床への応用について記述する。
引用文献)
1)Cushing CA, Lau H, Hofmann SG, LeDoux JE, Taschereau-Dumouchel V. Metacognition as a window into subjective affective experience. Psychiatry Clin Neurosci. 2024 Jun 17. doi: 10.1111/pcn.13683. Epub ahead of print. PMID: 38884177.
主観的感情体験をどう紐解くか?:2つの次元の回路
まず、どのように主観的感情体験である恐怖などを感じるようになっているのか、そしてその感情に対してどのようなプロセスで反応し、行動するのかをConscious perception(意識的知覚)の基礎科学の理論を利用し紐解く。
脅威刺激、つまり生物が危険や脅威として認識する外部からの刺激は、二つの次元の回路に分かれる。一つは高次元の回路につながり、本能的に主観的体験(恐怖)を生み出し、この恐怖を認識したうえで過去の経験や知識に基づいて、意識的な対処行動を起こす。
もう一つは、低次元の回路につながり、「パブロフの犬」型の条件付き反応、つまり過去の嫌な経験から学習した恐怖反応や、無意識な自律神経系の反応(心臓がドキドキし手が震える、フリーズする)を引き起こし、自らを本能的に防衛しようとする反応を引き起こす。
これらの2つの次元の回路はお互いに制御し合っており、低次元の回路は高次元の回路にフィードバックを与え、高次元の回路は低次元の回路を監視し、フィードバックを受け取り、感情・行動を調節する。
特に、高次元の回路が低次元の回路を「監視」する自己監視メカニズムが、ストレスの多い状況に対する評価や、逆境に直面したときの心理的回復力を決定する上で、大きな役割を果たしている可能性があると考えられている。
2つの次元の回路のバランスの崩れが問題となる
この2つの次元のバランスの乱れが、臨床的にも問題となる過剰な感情的・行動的反応を引き起こしうる。具体的には、背景にトラウマを抱える患者は、繰り返し脅威刺激を加えられたことから、低次元の回路、つまり防衛生存回路が過剰に発達している。
これらの背景から、高次元の回路が低次元の回路を監視する自己監視メカニズムが機能不全に陥っていると、強い低次元から高次元の回路に送られる脅威信号が高まり(太矢印)環境に脅威があるという確信が膨らみ、不安や否定的な感情が持続し、意識的な対処行動を起こすことが難しくなる場合がある。
自己監視メカニズムをメタ認知によって強化する
これまでの議論をまとめると、脅威の刺激は高次元・低次元の回路につながり、それぞれ意識的な行動や感情・無意識で本能的な感情や反応を呼び起こす。そして、これらの回路はそれぞれを制御し合っている。一方で、脅威にさらされ続けることで低次元回路が発達してしまうと、自己監視メカニズムが破綻し、高次元の回路が働きにくくなってしまう。
自己監視メカニズム」の脆弱さは、不安やストレスに直面したときの心理的回復力の低下を招く。そのためメンタルヘルス患者の診療においてもこの「自己監視メカニズム」に焦点を当てることは有益であろう。
そしてこの論文では、「自己監視メカニズム」は、メタ認知と呼ばれる認知プロセスに類似していると論じられている。つまり、メタ認知により自己監視メカニズムを強化し、心理的な回復力を高めることができる可能性がある。
メタ認知とは
メタ認知とは、自分自身の認知や感情的な処理を監視、評価する能力のことを指す。つまり、自分がどのように物事を理解し、それにどのように反応しているかを自覚し、理解する力である。この能力は、主観的な感情体験を知るための「窓」を提供し、それによって自己理解を深め、適切な対処法を見つけることが可能となる。
メタ認知は、訓練することで向上させることが可能である。具体的には、マインドフルネスや瞑想といった方法を用いることで、自分の思考や感情に気づき、それらを客観的に観察するスキルを養うことができる。
またメタ認知は、日常生活においても、様々な場面で役立つツールとなる。物事が思うように進まないとき、人間関係に悩んだとき、さまざまな困難な状況に立ち向かうときなど、生活の中で起こる様々な問題に対しても、自分自身の感情や思考を理解し、それに対応するための適切な方法を見つけることが可能になる。
さらに、自分自身の感情を理解することは、他人を理解するための窓ともなる。他人の感情や思考を理解し、それに対応するための適切な方法を見つけることが可能になる。これにより、人間関係を深め、より良いコミュニケーションを取ることができる。
詳しいメタ認知の方法は、Perplexity AIがまとめてくれた文章を参考にしてください。
メタ認知の具体的な方法
1. 思考記録法
患者に、自分の思考や感情を記録するよう指導します。これにより、どのような状況でどのような思考が生じるかを把握できます。
具体例:
- 状況: 職場で上司に叱られた
- 思考: 「自分は無能だ」
- 感情: 落ち込み、悲しみ
- 行動: 仕事に集中できない
この記録を基に、患者と一緒にその思考が合理的かどうかを検討し、より建設的な思考に置き換える方法を探ります。
2. 認知再構成法
患者が持つ否定的な思考パターンを特定し、それを挑戦し、より現実的でポジティブな思考に変える方法です。
具体例:
- 否定的な思考: 「私はいつも失敗する」
- 挑戦: 「本当にいつも失敗しているのか?成功したこともあるのでは?」
- 新しい思考: 「失敗することもあるが、成功することもある」
3. 自己対話法
患者に、自分自身と対話する方法を教えます。これは、困難な状況に直面したときに、自分を励ましたり、冷静に考えたりするのに役立ちます。
具体例:
- 状況: 試験前の不安
- 自己対話: 「私はこれまでに十分に勉強してきた。最善を尽くせばいい」
4. マインドフルネス
現在の瞬間に意識を集中させ、過去や未来の思考から解放される方法です。これにより、ストレスや不安を軽減することができます。
具体例:
- 方法: 呼吸に意識を集中させ、今この瞬間に注意を向ける
- 実践: 毎日5分間のマインドフルネス瞑想を行う
メタ認知トレーニングの実践
メタ認知トレーニング(MCT)は、特に精神疾患を持つ患者に効果的です。MCTは、患者が自分の認知の歪みを認識し、それを修正するための具体的な技術を提供します[1][3][5]。
MCTのステップ
- 認知の歪みを特定する: 患者が持つ典型的な認知の歪み(例:全か無か思考、過度の一般化)を特定します。
- 歪みを挑戦する: その歪みがどのように現れるかを具体的に検討し、挑戦します。
- 新しい認知パターンを形成する: より現実的でポジティブな認知パターンを形成します。
具体例:
- 歪み: 「一度失敗したら、もう二度と成功しない」
- 挑戦: 「一度の失敗が全てを決めるわけではない。成功した経験もある」
- 新しいパターン: 「失敗は学びの機会であり、次に活かせる」
これらの方法を通じて、患者の心理的回復力を高めることができます。メタ認知の技術は、日常生活の中で繰り返し練習することで効果が増します。患者に対して、これらの技術を継続的に実践するようサポートすることが重要です。
Citations:
Perplexity AI
[1]https://www.semanticscholar.org/paper/e3b89c054e12978bff8c6e4f3591261325b15357
[2]https://www.semanticscholar.org/paper/bd4a4e42e0ce848509dcd0388d61a9228fd9a2d7
[3]https://www.semanticscholar.org/paper/d9b18044ede81ffab1ad2020ac89bb1fa9e08897
[4]https://www.semanticscholar.org/paper/e2ad9b0a5a52b224219f32a79f53247668f885d6
[5]https://www.semanticscholar.org/paper/c7b9f7dd5abdc94ed500781c32ad26cb216afc07
[6]https://www.semanticscholar.org/paper/3b9f28ef4d6573e7863cb504ff529d8ae0351b17
結論
外界の刺激に対して、感情がどのような経路で感じられるかを論じた後に、メタ認知を強化することで心理的回復力を高める事ができるという仮説を紹介した。
メタ認知は、主観的感情体験を理解するための窓としての役割を果たすことができ、我々が自身の感情を理解し、それに対処する能力を向上させることに大きく貢献する。その訓練と活用により、心理的な幸福感を促進し、生活の質を向上させることが可能となるだろう。これらの理由から、メタ認知の重要性を認識し、その活用を患者とともに推進していくことが求められている。
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