多疾患併存状態(Miltimodility)とは?
- いくつかの慢性疾患が併存し、診療の中心となる疾患、医者を設定し難い状態のこと
- どの科の専門家が中心となるべきかが明確になりにくく、ケアが科別に分断されている状態
Miltimodilityの問題
- ポリファーマシーと予期せぬ入院が増える
- 患者が自身の情報を運ぶことになり、情報機能不全となる
- 患者の治療負担が増大する(後述)
誰に介入するべきか
NICEガイドライン
- 治療や日常の活動を管理することが難しいと感じている患者
- 複数のサービスからケア・サポートを受け、さらに追加のサービスを必要とする患者
- ⻑期にわたり身体的および精神的健康状態が不安定な患者
- 頻繁な救急受診をしている患者
- フレイル
- Polypharmacy
多大な治療負担がある患者(MTBQによる評価)
- 内服の多さ
- いつどうやって薬を飲むか覚えておくこと
- 処方された薬を全てもらってくること
- 自分の医学状態のモニタリング(血圧、血糖、症状)
- 医療者との予約の調整
- ポリドクター
- 受診のための調整(勤務調整や交通手段の確保)
- 自分の病気についてわかりやすくて最新の情報を得ること
- 勧められてように生活習慣の変更、改善をすること(食事、運動)
- 家族や友達に助けてもらわないといけないこと
- 0点困難ではない〜4点極めて困難で評価
- (合計点)×2.5で22以上を治療負担が高いと判断
目標設定【Ariadne Principles 】
-
患者家族と『どこを治療やケアの落とし所にするか』を探っていく姿勢を持つ
- 以下のアプローチから、実現可能な目標設定を
- 潜在的な疾患や治療の相互作用を評価する – 患者の状態・治療・気質・文脈-
- 現在のプロブレムリストを管理し、その重症度と影響や使用している薬物を評価、検討する
- 患者のケアに関与している他の医師やセラピストをリストアップし、全体的な治療負担を評価する
- 不安、苦痛、抑うつ、食欲不振、睡眠障害または認知機能障害の徴候がないかどうかを積極的に監視する
- 社会的状況、経済的制約、生活条件と社会的支援、ヘルスリテラシー、機能的自律性、対処戦略 を引き出して検討する。
- 患者の好みと優先順位を引き出す – 患者が最も望んでいる・望んでいない結果-
- 健康に関する考えを聞き出す(生存、疼痛、緩和ケアの必要性など)。
- 患者(および患者の介護者)と現実的な治療目標について合意する。
- 交渉された治療目標を達成するための個別化マネジメント
- 個々の患者のリスクレベルおよび嗜好を考慮して、治療により期待される利益と、予想される有害性を評価する
- 患者(および介護者)の治療負担および複合的な負担を評価する
- 患者のニーズと能力に応じて自己管理を検討する。
- 副作用の症状などのセーフティーネットの指示や、適切な管理についての推奨を行う。
- 目標達成度を評価し、相互作用を再評価するためのフォローアップスケジュールについて患者と合意する。
- 患者に関わる他の医療提供者および 非公式の介護者に相談する。
どう介入するのか?
-
全体像の把握、患者の健康問題の整理、全体を俯瞰して治療負担と患者のキャパシティーのバランスを考える
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このバランスが取れているときに、何とかそこそこやっていけるな、、という感じ
-
この患者さんがそこそこうまくいっているのはなぜ?
マルモの診かた総論(後編) | 2020年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院患者の治療負担
治療負担=ポリファーマシー+ポリドクター+療養に必要な生活習慣
- 医療者からの治療上の様々な要求事項に対しての負担。これらの要求事項は患者が十分に対応能力があることや家族のサポートがある前提に成り立つ
- 患者と医師の治療負担に認識は違う。疾患自体の負担(脳梗塞に伴う片麻痺など)とは別
- 各診療科がガイドライン通りの治療をするととてつもない治療負担になる
- 具体的な治療負担は以下のとおり
- 治療とその目的を学ばなければならないこと
- 服薬などの治療に対するアドヒアランスを維持する
- ライフスタイルを変えて、治療のモニタリングを自分で行うこと
治療負担を軽減する
- 減薬、安価な治療法
- 通院すべき診療科を厳選し、単線化(総合診療医が主治医機能を果たす)
- ケアをシンプル化
- 水平統合・垂直統合の強化
患者のキャパシティー
- 患者のキャパシティーが高ければ多大な治療負担に耐えられるかもしれない
- 患者のキャパシティー=疾患理解+社会的サポート+レジリエンス
- 内的要素(個人の能力、教育水準、性格、認知機能、精神状態)と外的要素(社会サポート、職業上サポート、経済状況、低域施設の有無)がある
- 患者のレジリエンスを聞く時→苦境のときにどうやって乗り切ったの?座右の銘は?
キャパシティーを動員する
- 現状の理解を確認し、理解をすすめる
- 治療計画を一緒に作り、目標を共有する
- サポート(家族や患者同士)を巻き込む
- 例)通院が困難になった患者。なぜバランスが崩れた?
- Capacityが落ちた?(認知症が進行して疾患理解が減って、社会的サポートが落ちた?)
- 治療負担が増えた?(朝起きてから夜寝るまで忙しい)
patient journeyを一緒に考える
- 患者の受療行動と医療の関わりを患者の視点から可視化したもの
- 患者の理解や治療への参加する気持ちを高めるツールとなります。さらに医療提供側にとっては、Patient Journeyは患者を理解し、円滑な意思決定を図る時や患者の一連の決定プロセスを把握する
どう勉強するのか
カルテを通じて勉強する
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自分が主治医として関わっており、かつProblem Listがやや複雑な患者を抽出
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その患者カルテにおいて
「Problem List整理」
「重要情報の取捨選択・サマライズ」
「ケアプランのまとめ(シンプル化)」
「定期処方薬の並び替え」を行う
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外来・在宅で「継続的に診療を担当」し、その中で生じる微修正や他科専門医・他職種との連携を経験する
カルテ記載のPoint
- カテゴリーごとにまとめる。一番上はKeyとなるマルチモビリティーパターンを
- 薬剤を使っている未分化な症状は記載
- マネジメントに影響の⼤きいプロブレムは病歴・検査歴・処⽅歴・他医療機関受診歴を絞って経時的に記載
- 併診は能動的に管理(積極的に⼿紙を書く)
- 治療的介⼊は「効果判定期間・基準」を明記
- 「ケアのシンプル化」、認知負荷を減らす
- 主訴を中心に、Problemの優先順位を
- 他院に紹介する時用に、医療用語に落とし込む
Tips
- 朝起きて夜寝るまで病気の対応で、一日中忙しい
- 一歩引いて生活の全治像をイメージして、患者家族と「どこをケアの落とし所にするか?」を探っていく
- わずかでも、改善可能なポイントがあればチームでアプローチする
- 経時的に治療負担を再評価する
- キーとなる健康問題は、慢性心不全、慢性閉塞性肺疾患、認知層、筋骨格系の慢性疼痛、孤独と貧困、骨粗鬆症、精神疾患など。精神科のDrとは連携を。精神科の病気は入院歴とか聞いておくとよい
- 非薬物治療の利用やソーシャルサポートを含めて把握する
- マルチモビリティーへのアプローチは、真の主治医機能が試される
参考資料
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大浦Drのブログ
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薬が増えるほど、退院時の服薬コミュニケーションは医療者からの一方的なものになる
- ほとんどが対話ではなく医療従事者からの情報提供
- 議論する薬が1つ増えるごとに、対話を持つ機会が30%減少
- 患者の薬物関連問題のリスクが高いほど、医療従事者がより主導的に会話に参加
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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3506008/bin/prom-3-039f1.jpg
- テーマ1:健康のために患者がしなければならない仕事
- 病状やケアについて学ぶ
- セルフケア活動
- セルフケアの心構え
- 診療予約を維持する
- テーマ2:セルフケア作業を促進するための問題に焦点を当てた戦略とツール
- お薬の整理と準備
- 診療予約の準備
- 医療情報を求める
- 他人からの支持を得る
- テーマ3:認識された治療負担を悪化させる要因
- 服薬の課題
- 家族/友人との感情的な問題
- 役割と活動の制限
- ヘルスケアの財政的課題
- 医療情報に関する混乱
- 医療提供の体系的な障害
- テーマ1:健康のために患者がしなければならない仕事
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臨床医だけではなく患者側も臨床医の医学的脆弱性(エビデンスの欠如を取り巻く不確実性など)を認め、SDMの障壁であると認識していた。不確実性の伝達は、SDMトレーニングの中核となるべきものである。
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非服従と関連していたのは、以前の非服従と治療に関連した信念であった。多疾病患者は特定の疾患を他の疾患よりも優先する傾向があり、適正な介入のために複数の薬物のアドヒアランスを個別に評価する必要性を強調している。
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多疾患併存状態は15年間の追跡で認知症発症リスクを63%上昇させる[JAMA 2022]
【多疾患併存と認知症発症の関連】206960人を対象としたコホート研究において、多疾患併存状態は15年間の追跡で認知症発症リスクを63%上昇させることが示された。認知症発症リスクは、心血管疾患と代謝性疾患を持つ人と、認知症の遺伝的リスクの低い人で最も高かった。
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多疾患併存の高齢者とGPとの間の,意思決定の共有(SDM)に及ぼす因子[BJGP 2022]
臨床における脆弱性に対する臨床医の認識は,患者とGPの双方においてSDMの障壁として認識されていた.臨床ガイドラインを適応しつつ,primary careにおける臨床的不確実性を伝えるトレーニングが重要である
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治療負担の増加は5つ以上の慢性疾患・GPからの距離(10分以上)・健康リテラシーが関連[BJGP 2022]
【multimorbidity患者における治療負担の増加】治療負担の増加は5つ以上の慢性疾患・GPからの距離(10分以上)・健康リテラシーが関連があった。GPから遠く離れた場所に住んでいる人々の健康リテラシーを高めることで、負担の増加を緩和できるかもしれない。
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年齢≧60歳・無職・危険な飲酒がないことがcomplex multimorbidityと関連があった[BMC 2022]
【日本の離島におけるcomplex multimorbidityの関連因子:横断的研究】年齢≧60歳・無職・危険な飲酒がないことがcomplex multimorbidityと関連があった。の社会的決定事項(SDH)の関連性のある可能性を示唆するものであった。
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プライマリケアチームがマルモ患者のQOLを高めるメカニズム[BMC 2022]
- リーダーシップによるチームメンバーや患者へのサポート
- ケアの再組織化
- タイムリーなフォローアップと薬剤調整
- PCTによる患者の自己管理への強いサポート
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Multimorbidityの患者が抱いているケアの優先順位と好み
- 共有電子カルテの使用、定期的な包括的評価、自己管理支援と共有意思決定、ケアコーディネーション
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・慢性疾患患者のケア負担をICANという尺度で評価 ・若年、高BMI、およびうつ病の診断の特徴は、より多くの負担と関連 ・特に大うつ病性障害は、うつ病のない患者の 2 倍の負担
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・GPを対象にインタビュー ・満たされていない患者のニーズと断片的なケアは患者と医師のバランスを崩す ・関係の継続性と患者中心のケアを基に、患者と一緒に踊ることで、患者も医師も自信と満足感を得る
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