家庭医療とは?

家庭医療とは『特定の地域』に住む個人・家族の全ての健康問題に、そして地域に継続的に関わる医療形態である。

つまり家庭医とは、特定の地域を「まるごと診る」医師とも言える。特定の年齢・臓器・疾患などを守備範囲を設けず、地域全体を対象として、日常よく遭遇する健康問題に対して、年齢や疾患を問わず包括的に対応する。

家庭医が得意とする健康問題の構造には『未分化な健康問題』『多疾患併存状態』『下行期慢性疾患』『複雑困難事例』などがある。

これらの問題は共通して患者ごとに個別性が高く、『正解』つまり定まった解決方法がない問題である。定まった解決方法がない中で、家庭医は『疾患の治癒』だけではなく『患者・家族の健康やQOL、well-being』『地域全体の健康増進』を目指し、患者・家族・地域資源と相談しながら落とし所を探っていく。

個別性の高い問題の落とし所を探っていくためには『個人』の深い理解が必要である。対象としてる『個人』は、居住環境や受けてきた教育、収入などの社会的要素や地域の状況、家族の状況に大きく影響を受けている。『家族』や『健康に影響を及ぼす社会的要素(≒SDH)』の情報を集め、「個人」をより深く理解することが求めれる。

 

個人を深く理解した後に、医師-患者間の共通の理解基盤を形成し、落とし所探って行く。その際には『患者中心の医療の方法』『EBM』などの方法論を用いられる。

患者さんの個別性と、医学的な妥当性を統合し、ベストと思われるケアを実践するに当たっては、プライマリケアチーム力が試される。プライマリケアチーム力を高めるためには、普段より『チーム医療』を実践し、『システムに基づく診療・ケアの改善』を図り、また『地域志向のケア』を通じて地域との連携力を高めておく必要もある。

以下に、家庭医療の起源と役割について紹介する。

家庭医療の起源と役割

19-20世紀にかけた科学の発展は、医学界にも大きな変化をもたらした。ペニシリンの発明に始まり、新たな治療法の開発が盛んに行われた。これらの医学の進歩から家庭医療の起源と、家庭医の役割を読み解いていく。

科学の発展と医学の進歩がもたらした変化

公衆衛生の向上

19世紀までの主な死因は感染症であった。科学の発展により、公衆衛生が向上し抗菌薬の開発により、感染症で命を落とすことが少なくなった。感染症という急性疾患で命を落とさなくなった現代での死因は、1位が悪性腫瘍、2位が心不全、3位が脳血管障害と『個人の』生活習慣に関与する疾患が並ぶようになった。

『個人の健康の時代』
つまり健康が、個人の意思決定生活習慣など)に強く依存する時代が到来した

Mcwhinney 家庭医療学

専門分化

医学の発達が専門細分化の時代を生み、主要な専門各科が生まれた。研修プログラムや専門医認定試験も発展し、専門医への信望は高まり『患者が診療科を決めて受診する時代』が到来した。

高度な医療技術と専門的ケアを入院または専門外来で治療を受けられるようになったとなる一方で、専門分化したことで医療費が高騰し、専門外来での分断されたケアが行われた。

各専門家による分断されたケアにより、多疾患を持つ人達の治療負担(費用面・治療の負担)は増大し、また『はっきりしない症状』を抱える患者さんはどこを受診していいのかわからなくなった

高齢化

感染症以外の急性疾患の治療法も向上を続け『急性疾患』で死亡者が減った一方で『急性疾患』を経験した後に機能障害(脳梗塞による片麻痺、心不全による労作時呼吸苦など)を抱えながら生活する人が増えた。また高齢化に伴い機能障害(筋力低下、視力聴力低下など)を抱える人も増え『機能障害を抱えて生きる時代』になった。

身体の機能障害は、自分自身や周囲の環境を変えてしまい、まるで自分が自分でないような感覚に襲われながら、今ある環境(住宅環境・仕事環境・家族との関係など)に適応していかなければならず、長時間にわたる心理面・社会面が混じり合った複雑な苦しみを味わうことになった。

急性疾患後・高齢に伴う機能障害を抱えて生きる時代になり、心理面・社会面が混じり合った複雑な苦しみを抱える患者が増えた

症例の一般化

科学・医学の発展により、技術や研究手技に重きが置かれ、臨床研究が盛んに行われ、優れたエビデンスが集められ、それらのエビデンスに当てはめるため、個別性(数年前に妻を亡くし、以降独居など)は無視され、患者個々の『個別性が排除されやすい時代』になった。

臨床研究のため、患者個々の個別性が排除されやすい時代になった

時代に合わせた、家庭医の役割

これらの『時代』に合わせ、以下の役割を持つ『家庭医』が求められるようになった。

科学の進歩とともに求められる家庭医の役割

1.健康増進・予防医療を行う

2.地域のヘルスケアを提供するハブとなる

3.『個人』の背景を考えた診療をする

健康増進・予防医療を行う

『個人の健康の時代』に合わせ、家庭医は健康増進と予防医療が求められた。目の前に現れたすべての患者さんを『慢性疾患のリスクを抱えた人』と捉え、接するすべての機会を健康増進と予防医療の機会と考える。具体的には、生活習慣習慣病の予防やワクチン接種、癌のスクリーニングなどを適切に行う。

地域のヘルスケアのゲートキーパーとなる

『患者が診療科を決める時代』に合わせ、家庭医は地域のヘルスケアのゲートキーパー(案内人)としての役割が求められた。つまり、患者さんの問題を総合的に判断し、必要な医療資源を案内する役割である。

この働きによって病院の専門医への紹介・検査・薬剤の処方などの際に、限られた人的、物的、金銭的な医療資源を効率良く利用することができる。また『どこを受診していいかわからない』患者さんへも問題を総合的に判断することで必要な医療資源へ案内することができ、多疾患を抱える患者さんの受診の『交通整理』を行うことで治療負担を軽減することにもつながると同時に、臓器専門医にとっても、ゲートキーパーの存在により、それぞれの専門治療に集中することが出来るようになる。

患者さんの問題に必要な医療資源を案内するためには、地域のヘルスケアサービスを知り、連携・統合する必要がある。統合には2種類存在し、1〜3次医療サービスの連携する垂直統合、他の保健専門職とともに地域専門職と地域支援サービスと連携する水平統合がある。これらの統合により地域を支える医療サービスが円滑に連携できるように調整するのも家庭医の大切な役割である。

個人の背景(コンテクスト)を考えた診療する

『機能障害を抱えて生きる時代』の心理面・社会面が複雑に混じり合う問題を理解するために、個人の背景(コンテクスト)を考えた診療することが求められる。背景には家族、生活状況、コミュニティ、社会などが含まれ、それらの個別の背景の中で病気がどのように患者に受け止められるのかを理解する。

「コンテクストの大事さはジグソーパズルに例えられる。何を意味するかわからないパズルの一片をコンテクストという全体像においてみると、たちまち意味が明確になる」

Mcwhinney 家庭医療学

個別性を重視し、主観的情報(病歴・身体診察・検査所見)に加え、病気を持つ患者の感情や医療への期待などを踏まえ、これらを縫い合わせるように診療に生かしていく。

家庭医療の原則

これらの役割を担う『家庭医療』を実践するための行動原理をMcWhinneyを示した。これらの行動原理一つ一つは他の専門領域の医師も担いうる一方で、家庭医はこの行動原理を一体のものとして展開することが特徴である。

人間を対象とした学問である

どんな健康問題も専門領域内にあり、紹介を含めて,初期評価・ケアの調整・継続性に対して責任を負う

  • 家庭医が関わるのは、特定の『疾患群』ではなく、『人間』である。
  • 『疾患』ではなく『人間』との関わりは、健康問題の種類や、性別や年齢に制限されず、あらゆる健康問題に対して柔軟に対応する。
  • 患者の経験、苦しみに対する感情を排除せずに扱う。
  • 『人間』との関わりには終点はなく、病気が治癒しても続く。この『継続性』のある関係性そのものが専門性の中核にある

病気のコンテクスト(文脈)を考える

・多くの病気は,患者の個人・家族・社会のコンテクストの中で扱わない限り完全に理解することはできない「コンテクストの大事さはジグソーパズルに例えられる。何を意味するかわからないパズルの一片をコンテクストという全体像においてみると、たちまち意味が明確になる」

  • 病気には家族、生活状況、コミュニティ、社会などの文脈(コンテクスト)がある
  • その文脈の下で病気がどのように患者に受け止められるのかを理解し、病歴・身体診察・検査所見などの客観的データと同時に病気を持つ患者の感情や医療への期待などを踏まえ、主観的情報と客観的情報をバランス良く診療に活かす『全人的ケア』を提供する。

患者と接するすべての機会を健康増進の機会と考える

  • 家庭医はあらゆる機会を活かして、疾患の予防や健康増進を提供する
  • 風邪、腰痛、皮膚炎、高血圧症などすべての機会が予防医療を実践する上で絶好の機会となる
  • ある地域の健康ニーズを満たす家庭医にとって、眼の前に現れた患者はリスクを持った住民であり、健康増進・予防医療を行わんとする必要がある

自分をヘルスケアを提供するネットワークの一員とみなす

  • 病院、保健所、訪問看護、ソーシャルワーカとの連携し、地域社会のヘルスケアネットワークにおけるハブとして機能し『統合されたケア』を提供する。
  • 『よろず相談』を請け負うことで健康問題のゲートキーパーとしての役割を果たす。
  • ハブ・ゲートキーパーとしての機能を果たすことで、病院の専門医への紹介・検査や薬剤の利用において、医療資源をマネジメントする役割を持つ。

患者を家庭の中で診療する

  • 家庭医は診療所だけでなく、在宅診療を提供する。
  • 病院では見えない患者さんの生活を知ることは、病気がどのような場でどのように生じるのか、またどのように治癒していくのかを理解する上でも重要である。

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