解釈的医療を実臨床に適用する-United Generalism Model-

何が問題か分からない患者さんのケア

総合診療医の専門性の一つとしての解釈的医療に関して,Joanne ReeveのReviewを紹介した.

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家庭医療(Family Medicine)をすべての医療者に届けたい。家庭医療に関するTopiscを紹介。

この解釈的医療を臨床でどのように使用するかについて考察していきたい.まずJoanne ReeveのUnited Generalism Modelを紹介する.そして,ジェネラリストの仕事を統合ケアと 解釈的医療 というジェネラリストの”2つの顔”から分析し,その中でどのような問題に対して解釈的医療を適用するべきかを述べる.さらにRupal Shahの解釈ウインドウを引用しながら,解釈的医療をどのように適用していくかを考察する.

 

なお,本稿は

1) Reeve J, Byng R. Realising the full potential of primary care: uniting the ‘two faces’ of generalism. Br J Gen Pract. 2017 Jul;67(660):292-293. PMID: 28663412.

2)Shah R, Clarke R, Ahluwalia S, Launer J. Finding meaning in the consultation: introducing the hermeneutic window. Br J Gen Pract. 2020 Oct 1;70(699):502-503. PMID: 33004369.

3) Shah R, Clarke R, Ahluwalia S, Launer J. Finding meaning in the consultation: working in the hermeneutic window. Br J Gen Pract. 2021 May 27;71(707):282-283. PMC8163454.

の3つの文献を意訳したものとなっている.詳細は上記論文を参照していただきたい.

United Generalism Model

医療の過度な専門化に伴うケアの増大に起因する医療資源の枯渇に直面し,医療の提供方法と提供するケアの両方を考え直さなければならない状況を迎えている.そのためには解釈的医療を上手に適用しながら,患者の疾患自己管理能力を高め,医療資源を節約する必要があるかもしれない.

 

一方プライマリケアの現場においても,解釈的医療に代表される,患者の全人的背景からのアプローチを必ずしも要さない場合(例:一部の急性疾患など)もある.

 

つまり,問題に対して適材適所に”資源”を使用し,患者ニーズにあったケアを提供する方法を考えなければならない.Joanne Reeveは,ジェネラリストの仕事を統合ケアと 解釈的医療 というジェネラリストの”2つの顔”を軸としてマッピングし,その中でどのような問題に対して解釈的医療を適用するべきかを分析するためにUnited Generalism Modelを作成した.

United Generalism Model 一部著者改変

United Generalism Model 一部著者改変

X軸(個別ケア軸)には,提供されるべきケアのウェイト(標準化されたケア⇔解釈的ケア)

Y軸(システムの軸)には,問題に必要な資源のウェイト(単一問題⇔他職種にわたる問題)

をプロットしている.

プライマリケアに携わる臨床医は,この連続体に沿って行動している.大きく4つに分けてそれぞれのカテゴリーを観察してみる.

 

単一問題/標準化されたケア(左下)

例:軽症の急性疾患(風邪や外傷),高血圧症や脂質異常症,予防接種など

明確なニーズとシンプルな技術によるケアがなされる.プライマリケアと患者の出会いを提供してくれるカテゴリーである.

 

他職種にわたる問題/標準化されたケア(左上)

例:心筋梗塞の急性期管理,関節や弁の外科的置換術など

主に病院で多職種チームによってケアが提供される.解釈能力の優先順位は低くなり,エビデンスに基づき『症例』においてベストな治療がなされる.急性期が終わり,軽度から中等度の精神衛生上のニーズがある患者や,医学的に説明のつかない慢性疼痛を抱える患者などは,解釈的な診療に長けた専門家に紹介される.

 

単一問題/解釈的医療(右下)

例:コモンなメンタルヘルスにおける問題や,慢性疼痛,診断のつかない症状など

一般的には医療チーム間の高度な統合ケアは 必要なく継続的なケア解釈的な病い体験の探索(FIFEの探索など)により安心感を得て解決する場合もある.

 

他職種にわたる問題/解釈的医療(右上)

例:多疾患併存状態,フレイル,下降期慢性疾患,重度の精神疾患など

これらの慢性的で複雑なケアを必要とする患者,特に日常生活の管理能力が低下している患者に対しては統合ケアと解釈ケアの両方が必要である.患者とともに意思決定を行い,社会的,感情的,生物学的な領域で変化するニーズを考慮しながら,チーム間で協力できる専門家が求められる.ニーズの優先順位付けを助け,より少ない医療を選択することで,多大な治療負担から生じる異所性被害を回避することができる.

 

適材適所にケアを提供する

リソースを適材適所に使用するため,問題がどのカテゴリーに位置するのかを判断し,患者個々にあったニーズをタイムリーに特定する必要がある.United Generalism Modelは,これまでのケアの”中心”であった左上のカテゴリーから他の3つのカテゴリーへのシフトについて考えるきっかけとなる.右側のカテゴリーに対して解釈的能力を発揮していくことで,プロトコールやシステムのルールではなく,患者と医療従事者を臨床決定の中心に据え,より少ない医療資源で,複雑なニーズを持つ患者の非特異的な症状に対処し,継続的に慢性疾患を管理し予防医療を提供するというプライマリケアの役割を達成することが出来るだろう.

 

 

統合ケアと 解釈的医療 というジェネラリストの”2つの顔”を考えることで,それぞれのカテゴリーに適材適所にケアを提供することが出来るようになり,解釈的ジェネラリズムつまり強力な個人中心のプライマリーケアを大規模に実現することができるかもしれない

 

解釈的医療をどう実践していくか

 

では,次にどのように解釈的医療を実践していけばよいかを考察していく.適材適所にケアを提供しながら様々な問題に対応していくためには,標準的医療と解釈的医療をどちらも使いこなし,お互いを補完させ合わなければならない.つまり臨機応変に双方を出入りする必要がある.その上でアプローチを説明する新しい診療モデル(解釈ウインドウ)を紹介する.

解釈ウインドウ

このモデルは,4つの独立した,しかし関連した領域を持つ2×2の表として表現される.1列目は自然科学に支えられた生物医学的なもので,2列目は社会科学に支えられた人文科学的なものである.1行目は標準的なケアで,2行目には個別性の高いケアである.

解釈ウインドウ

解釈ウインドウ

ウィンドウ1 Clinical skills

ウインドウ1は病歴聴取や身体診察などの臨床スキルと,最新のガイドラインによる知識で構成されている.

初期研修医がまず最初に習い,現在の診察モデルのベースとなっているウインドウである.

ウインドウ2Evidence-based practice

ウインドウ2はEBMの実践に代表される,エビデンスから得られた知識や技術を特定の”症例”に対して適用する診療から構成されている.

個人にエビデンスを適用する際には,個々の患者に対する「正しい」答えが確実でない場合があるため,不確実性の増加もしばしば伴う.

ウインドウ3 Communication skills

ウインドウ3は基本的な病歴の聴取にとどまらず,患者中心の診察スキルから構成される.

具体的には“FIFE”や”かきかえ”と呼ばれるような患者の病い体験を共有し,共有の管理計画について交渉するための基礎として用いる事などが挙げられる.

ウインドウ4Hermeneutics<Fiding and creating meating>

ウインドウ4は,個人の経験が探索され”FIFE”や”かきかえ”が解釈される.患者が病いの体験やこれまでの発達より生み出した,”意味の網”(東京の交通網のような複雑なネットワーク)を医師が発見し,新しい洞察を引き起こしたり,患者が行き詰まったナラティブから前進することを支援する診療である.

病いの体験を探りながら,”意味の網”を探す過程で,重要な3つスタンスがある.

 

1 患者の病い体験の『伝記作家』や『証人』として立場
その人の経験の持つ意味を共に明らかにしていく過程を記す伝記作家のようなスタンス

 

2ナラティブ・ベースド・プラクティス
凝り固まった物語や,新たな気づき,Crietive capacityを探り、収穫を促すスタンス

 

これらのスタンスを持ち患者の行動や話し方に同調すると,物語的の一貫性や不連続性,探求すべき他の何かがあることを示唆する他のシグナルなどに気づくことができるようになる.この気づきが患者にとって病気が何を意味するかについての理解を促し,特に診察において不確実性や複雑性がある場合に,患者がそれを乗り越えられるよう支援できるようになる.

 

「臨床医は,恐怖を最小限に抑え,(たとえ限定的であっても)希望を見出し,特定の患者にとって意味のある言葉で症状や診断を説明し,勇気と我慢を目撃し,苦しみに寄り添うために,それぞれの患者の人間性を十分に見て聞かなければならない」

 

このように”FIFE”や”かきかえ”を解釈していく中で,医師・患者の共同作業で病いの体験の意味が作り上げていく.

この共同作業を担う1人として,医師は患者の病いの体験をなぜそのように解釈したかを振り返り,自身が感じていることを認識した上で,患者の経験を探索する必要である.これが3つめに重要なスタンスである.

 

3自己認識
自分の役割は何だろう?私はどのような仮定をしているのだろうか?私はどの程度自分を提供しているだろうか?臨床的な意思決定の根拠となる前提,偏見,判断は何か?診察外から受ける影響(COI,訴訟の恐れ,時間的プレッシャーなど)は何か?

 

これらの認識の上で,医師自身が患者の病い体験を解釈する際の影響を踏まえつつ,患者の解釈をサポートする必要がある.解釈的医療の実践により医師は「私はどのような医師なのか」だけでなく「今,この患者に対して,私はどのような役割を担っているのか」という具体的な質問をするようになる.

 

これらの4つの窓を認識することで,目の前の問題に応じてどの窓に出入りするかを考えるきっかけが生まれ,患者のニーズに合った最適な医療を提供することが出来るようになる.

では,解釈医療の実践例を見てみよう.

解釈的医療の実践例

ウインドウ1・2・3を用いた診療

患者は55歳女性.5年前に支配的な夫と離婚した.彼女は49歳のときに2型糖尿病を発症した.彼女はBMIが38で高血圧症であり,GPは以前からこの患者を支援し,長期的な関係にある.

彼女が糖尿病についてどのように理解しているか,また,どのようなことに不安を感じているかを尋ねた.彼女は,糖尿病に関する本を読んで,体重を減らし,運動したほうがよいことに気づいたと話した.バス運転手の仕事に影響が出ることを心配していると話した.GPは生活習慣のアドバイスを行い,メトホルミンを処方した.

患者の糖尿病に関して患者の“FIFE”やかきかえ”を聴取した上で生活習慣のアドバイスと処方を行った.この診療は主にウインドウ1(Clinical skill)とウインドウ3(Communication Skill)の領域である.またこの患者に最適な経口血糖降下薬を選択するというウインドウ2(Evidence Based practice)の領域における診療を行っている.

一方でこれまでGPは,患者や彼女にとっての意味よりも,病気に焦点を合わせている.

 

ウインドウ4 解釈的医療を用いた診療

1年後この患者の糖尿病はコントロール不良のままであり,栄養士に相談したが体重は増え続けている.GPは現状をどのように説明するか尋ねた.彼女は,日中に仕事をしているときは元気だが,夕方になると寂しくなり,チョコレートビスケットをよく食べてしまうと語った.GPは,彼女が元気がないのを察知し「どのくらい参っているのですか」と優しく問いかけた.彼女は泣きながら『私はとても役立たずだと思います』と続ける.前夫は私のことを哀れだと言っていましたが,彼の言うとおりだと思います」.彼女は,前夫との虐待による心の傷をまだ抱えていることが明らかになった.夫による支配と自分の糖尿病との関連について話す中でGPは,彼女が夫と離婚するほど強かったことを指摘する中でGPは,自分自身がこの患者にとって重要な仕事を担っているキーワーカーであることを再認識する.その後,このことが転機となったようである.糖尿病は改善し始め,カウンセラーに相談することを決意し,やがて成人した子どもたちとも再び連絡を取り合うようになった.

 

患者の自律性に対する配慮と尊重は,GPがほとんどの診察に持ち込む資質であるが,意味を見出し,創造するためにそれらをどの程度使用するかは,患者や出会いによって異なる.このGPは,彼女の過食の根底には何か他のものがあるという直感から,暫定的な探索を開始した.その結果,医師と患者の双方が,彼女の以前の人間関係と食に関連する可能性があることについての,新たな洞察を得た.その結果,彼女は自分自身を大切にし,よりよく見守ることができるようになった.この結果は,GPが自分自身を彼女の人生の困難な瞬間の目撃者として位置づけ,感情的なリスクを取り,人間レベルで寛大であろうとしたことの直接的な結果である.

まとめ:解釈的医療の実践における私案

解釈的医療の実践についてUnited Generalism Modelを紹介しながら,統合ケアと 解釈的医療 というジェネラリストの”2つの顔”から分析し,その中でどのような問題に対して解釈的医療を適用するべきかを述べ、解釈的医療を適応すべき問題に対しての対応の具体例を解釈ウインドウを用いて詳説した.最後に、解釈的医療の実践における私案を提示したい.

1.まず問題を探索する.
問題を認識する際にはDonner-Banzhoffらのinductive foragingが有用.

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2.United Generalism Modelを用いて,どのカテゴリーに属する問題かを,ジェネラリストの”2つの顔”から分析して,適用が必要な医療のカテゴリー(標準的?解釈的?単一問題?多職種を巻き込む?)を認識する.
適用が必要な医療のカテゴリーは,セッティングにも影響を受けるかもしれない(病院セッティングは標準的医療を求められる?).

3.明確なニーズがある問題にはEBMを中心に,複雑性や不確実性が高い解釈的問題には解釈的医療を適用する.
複雑性の評価においてはPCAM(Pacient Centered Assessment Method)が有用.

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4.EBMを実践する中で複雑性や不確実性が高いことに気づけば解釈的医療を適用する.
解釈的医療を実践する中で,症状におけるRed Flags や Tretable かつ Bio medicalで説明可能な問題を見つけるとEBMを適用する.このように,それぞれの”窓”を出入りしながら,EBMと解釈的医療を使いながら補完し合う.

解釈的モデルの実臨床への応用

EBMと解釈的医療を同時に適用することでEBMの実践により疾患という下位のシステムへ,解釈的医療により社会的上位のシステム同時にアプローチしながら Helingをサポートすることができるかもしれない.この過程は、患者中心の医療におけるDiseaseとIllnessを縫い合わせていく過程に類似している.

Rupal Shahは解釈学的アプローチを推進するには、好奇心、自己認識、物語が「行き詰まった」ときに挑戦する能力、そして思いやりが重要な属性であるとした.良い総合診療医にとっても重要な属性となるだろう.

コメント

  1. […] 解釈的医療を実臨床に適用する-United Generalism Model-解釈的医療を臨床でどの… 患者中心性を強化するknowledge work患者と医師の双方向のknowledge workにより認識的不公正を是正し、患者の経験と必要性に関する新しい知識の共同創造を促進することが患者のケアを強化するだろう。family-mason.com2022.12.18 […]

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