症状と”付き合う”ためには -持続性身体症状をプライマリケアでどう管理するか-

診断のつかない・慢性化した問題に悩む患者さんのケア

はじめに

プライマリケアには、「医学的に説明できない症状」や「持続的な痛み」を抱える患者さんが多く来院する。これらの診断がつかず、明確な治療も乏しい病気は医師も患者も、フラストレーションや喪失感を感じている。

持続性身体症状(PSS)は、仕事や生活習慣、人間関係に影響を及ぼし、全体性を脅かす。同様にPSSは、持続する症状や機能障害からうつ病を始めとした精神的問題を引き起こすことは想像に難くない。これらの問題の大半はプライマリケアで管理されているが、プライマリ・ケア医(GP)は、困難を感じており、これらの患者をいかに支援するかも不明確である。一方で、苦痛を過度に医療化し、過剰治療(特に抗うつ薬による)をしてしまうことは避けなければならない。

本稿では、持続性身体症状(PSS)患者のケアの経験を記述したBarendsら1)の文献と、持続的な痛みの経験を記述したShivjiら2)の文献を参照し、患者へのインタビュー内容を交えながら、患者が”診断の旅”で経験する過程を分析し、3つのテーマを抽出した。

  1. 不確実性
  2. 行き詰まり
  3. ケアの分断

その上でGPとして、症状と”付き合う”ためにはプライマリケアでどのように管理するべきかを考察した。

“診断の旅”での経験

不確実性

まず、慢性の症状や痛みを抱える人が経験する苦痛について述べる。

PSSは生活のあらゆる面に影響を及ぼす。痛みに圧倒され、日常の家事や楽しい活動ができなくなり、他人に頼よらざる負えない状況に陥り自律性を失ってしまいかねない。

「そう、だって、洗濯をしたり、夕食を作ったり、そんな簡単なことさえできない日があるんだもの
また慢性の症状は気分に影響を与える。
「もし、起きた時にいつもより痛みが強かったら、かなり動揺してしまいます。それは私の気分に影響を与えます。足の爪がうまく切れないのも、シャワーを浴びているときもイライラします。靴下を履くときもそうです。うんざりするほどです」

PSSがもたらす未分化な問題

このようにPSSは苦痛や気分への影響をもたらし、また苦痛や気分への影響がPSSを増強する循環的かつ相互作用的な関係にある。PSSがコントロールされないと、気分を害し、それがまたPSSを悪化させるという負のスパイラルに陥り、最終的には、うつ病などの気分障害をきたす。この相互関係の中で、PSS、苦痛、うつ病による症状は重なり癒合しらキメラ状態となり区別することが困難な”未分化な問題”を形成する。

この未分化さは、プライマリケアの問題における特徴の一つであり、”未分化な問題”に対してはケアチームを結成しながら、患者さんと共通の理解基盤を形成して、時間をかけながら取り組んで必要がある。

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PSSがもたらす恐怖

PSSは、患者本人には様々な苦痛をもたらしているが、他人からは見えづらく、苦痛や信じてもらえないという恐怖を感じている。この恐怖が医療従事者を含む人間関係への影響に拍車をかけている。また症状は年々増悪し、自分がどうなっていくか分からない”不確実な状況”が続き、さらなる恐怖・不安をもたらす。
「一番つらいのは、自分がそれを経験しているという事実だけでなく、そのことに耳を傾けてくれる人が誰もいないことです」「年をとればとるほど、痛みはひどくなります。私が苦しんできたこと、過去20年間に強さと頻度が増してきたことは、止まらないだろうし、続くだろうし、恐ろしいのは、自分のことがコントロールできなくなる段階にまで行くかもわからないということです」
問題の未分化さと先行きが見えない状況が不確実性を生んでいる。

行き詰まり

PSS患者は不確実な状況の中で、途方に暮れ、道に迷い、前進する方法がなく”行き詰まった”と感じ、助けを求めなんとかプライマリ・ケアに辿り着く。しかしGPも、このPSS患者を管理するための選択肢が限られており同じく”行き詰まった”と感じ”治療的ニヒリズム”に至る事がある。
治療的ニヒリズム
私たちができることはあまりありません。私たちが解決できることについては、患者が受けるべき検査をすべて受けたかどうかを確認し、ペインクリニックに紹介されたかどうかを確認し、適切な薬を試し、患者の精神衛生について考える以外には、私たちにできることはあまりないのです。そのように、私たちは患者さんと同じように、この状態を改善するためにできることは多くないと思います。
GPはこの”行き詰まった”感覚が、患者が診察へ不満につながる可能性と示唆している。

彼らは痛みがなくなることを望んでいますが、慢性的な痛みでは必ずしもそうとは限りません。そうすると、両者ともおそらくかなり不満を持っていて、実際にはあまり進展がないため、会話が進まないということになります。そうすると、おそらく別の開業医のところに行って、運試しをすることになり、また同じ話が始まるのです。

GPが行き詰まり、プライマリケアで管理できない症状を抱える場合、専門医に紹介される(もしくは直接専門医を受診する)。だが、専門医に紹介された後も困難が待ち受けている。

ケアの断片化

患者の症状に対する診断や説明、治療法の探求は、すべての疾患の軌跡における出発点であった。しかし旅路の中で、ほとんどのPSS患者はケアの断片化を経験していた。

匿名性の談合

一部のPSS患者はケアの断片化を、医療専門家(HCP)同士の「匿名性の談合」に陥ったと表現した。つまり、診断の過程でどのHCPも主導権を握らず、専門家から別の専門家への相互紹介のサイクルにはまり込んでしまったと感じていた。
医師は原因が掴めないと、紹介状を作成して次の専門家を紹介します。紹介状では、「これとこれを除外しました」と説明します。だか、紹介を受けた専門家はまた除外された疾患について話し始める。この繰り返しは、とても長い間続いた。私は「お互いに話してください」と思っていました。
この「匿名性の談合」の問題は医療システムの問題も孕んでいる。それはGPが二次医療のHCPからしばしば見放されることである。専門医の診察の後に、情報がGPに戻らず、患者さんと紹介状が一人歩きすることがある。GPや他のHCPは、これらの問題を認識し、患者を他のHCPに紹介する際の協力の重要性を認識すべきである。

複数のGPを受診した場合のズレのリスク

一部の診断の過程で複数のGPの診察を受けたPSS患者は、GPそれぞれのアプローチにズレを経験していていた。
私はこの診療所で、2人のGPの診察を受けている。もちろん、二人はコンピュータにメモを残しているが、そのメモを読むと、二人は違う話をする。その結果、……なんというか……違いが出てくる。

矛盾する情報

患者は診断のために、出会ったHCPsから伝えられた矛盾した情報に対処しなければならず、患者は困惑していた。

整形外科医は関節症だと言ったが、内科医は関節症ではない、線維筋痛症だ と言った。私は「私は関節症ではない」という事実を処理する必要があった。

PSS患者は助けを求める旅路の中で、ケアの断片化を経験しており、その度に失望し、混乱をきたしている。

GPがPSSをプライマリケアでどう管理すべきか

PSSが”診断の旅”で経験する過程を不確実性・行き詰まり・ケアの断片化の3つのテーマから考察した。この”旅”は、まるで真っ暗闇を僅かな街灯の中歩くような不安と恐怖に満ちた旅である。
この”旅”を支援するためのGPとしての役割を2つのテーマから考察する。
  1. 積極的に専門医と協働する
  2. 「スイッチを切り替える」

積極的に専門医と協働する

断片化に対するGPの役割

PSS患者は、GPが診断の過程で積極的な役割を果たすことを高く評価した。つまり、すべての情報は最終的にGPに行き着くため、GPは診断の軌道を調整する上で主導的な役割を果たすことが望ましいと感じていた。
あるGPは紹介前に患者と一緒に作成した明確な計画によって主治医として紹介状を作成して専門医に紹介し、専門医との診察後、積極的に患者に再診を依頼した。このようなGPの積極的な役割と共有された意思決定は、患者に自分が真剣に受け止められていると感じさせると同時に、ある程度のコントロールを維持することができ、ポジティブなものとして経験された。
GPが主治医として患者の”旅”をリードし、情報を集約しながら伴奏し、時に代弁することでHCP間のコミュニケーションを最適化し、「匿名性の談合」を防止することができるかもしれない。
「みんな自分の専門のことだけを考えている。でも、私はどの診断にも当てはまらないかもしれないということを事前に、あるいは途中のどこかで話し合っていれば、もっと早くその輪が閉じられたと思うんです。」

締めくくりの会話

またある患者は、「締めくくりの会話」があればよかったと述べた。専門医に紹介した後の診断の軌跡の最後に、診断と治療法の探求を振り返り、自分の病気には治療法がないという事実に決着をつけるための会話は有効かもしれない。

「私は、彼女(医師)がつなぎ役となって、すべての情報が彼女に戻ってくると思っていました…。ある時点で、彼女に「結論は、できることは何もないということですね」と伝えに戻ろうと決心しました。そして、彼女が率先して最後の会話をすることを期待したんです。しかし、それも起こりませんでした。誰も本当にリードしてくれませんでした」

「スイッチを切り替える」

インタビューした患者の中には、診断と治療法を見つけるためにさなる”旅”を続け、献身的に努力した人もいたが、症状の説明不可能性を認め、”旅”をやめ、症状にできる限り対処することに「スイッチを切り替える」ように焦点を移した人もいた。

「私がより前向きになろうとする方法は、それが何であれ、ただ続けていくことです。そうすることで、自分が成し遂げようとしていたことが何であれ、まだ達成できたと思えるからです」

「辛いことを考えていると、すべてのネガティブな理由を考え始めますよね。ポジティブなことに目を向けていれば、そのような心境にはならないかもしれない」
このようにPSS患者の「スイッチを切り替える」作業を支える際には、”足並みを揃える”ことと”支持的環境を提供する”ことがGPとして大切である。

足並みを揃える

本研究の一部の患者は、診断がついていないときにGPが症状を軽視し、支持療法や症状管理計画を妨害することを経験している。

「GPから、”でも、それなら何も問題ないでしょう “と言われたことがあります。でも、一日でも私の身になってみれば、何でもないわけではないと思うでしょう。

患者とGPの足並みが揃っている時には、患者は可能な解決策や症状への対処法をGPと一緒に探すという肯定的な経験を報告した。
GPと一緒に、役に立つか立たないかを探しているのです。一緒に決めるのはいい気分です。それは本当に大事なことです。少なくとも、患者の意見を聞いてくれるのですから」
またある患者は、これらのGPとのギャップに対して整合性を取るために、リフレーミングを行った。つまり、助けを求める言葉を言い換えて、質問をより明確にする戦略をとった。

だから腰痛なんです、診察してくださいではなくまた腰痛なんです、これは効きませんでした、これも試しました、では次は何を試せばいいでしょうかという話を持って医者に相談しに行きました。教えてくださいと。

この様にPSS 患者は、支持療法へのアクセスを得る上で困難を経験していた。GPも不確実性を許容し、病気の治療から病気への対処へと「スイッチを切り替え」て患者の支持療法を求める助けに応じられるほど敏感でなければならない。

支持的環境を提供する

患者が診断の”旅”を締めくくり、「スイッチを切り替える」には、医師患者関係が助けになるかもしれない。一人の人間として共感を持って接し、信頼できるGPに話を聞いてもらえ、励まし、信じてもらえたと感じた経験が支持的環境となり、前へ進む一歩つまり、症状と折り合いをつけ、受け入れるという困難な作業の助けとなるだろう。
以前の開業医は、よくわからないから、ここで何をしているの?と思っているような気がしました。そして新しいGPは、私の話に耳を傾け、一緒に考えてくれる人です。
このような支持的環境の中で、痛みを持つ人々は、痛みを受け入れ、新しい生活に適応し、新しいアイデンティティの構築に取り組んでいることを説明した。
「私の痛みに対して、痛みのきっかけになるトリガーを避ける手段を私に教え、対処する方法を教えてくれました。だから、私はただそれ(痛み)と共に生き、教えられたことをしなければならないのです。
症状によって脅かされた全体性(バランス)を取り戻していくこの過程は「癒やし」に他ならない。
https://family-mason.com/archives/976
これらの支持的環境を提供できるGP-患者関係を確立するためには、継続性が必要であり、慢性的な症状と苦痛の両方に対処するための管理計画を作成し、合意するためにGPと協力する必要性を強調した。
「患者さんのことをよく知り、患者さんの立場を理解し、患者さんは時間をかけてその医師を知り、信頼するようになる。一度の診察でそれができるとは思えません」

残る不確実性

しかしPSS患者はこの移行の過程にも困難を経験していた。「スイッチを切り替える」際の困難の一つには不確実性があった。つまり、専門家の診察の後にも、診断できなかった疾患が見落とされているかもしれないという不確実性が残り、それは希望である半面悩みの種でもあるようだ。

稀な診断が見落とされているかもしれない、あるいは新しい知見や科学の発展によっていずれ診断がつくかもしれないというわずかな可能性が、頭の片隅に残っていたのです。そうだ、「何も見つからない」と言われたんだ。だったら、そう信じるしかない。それだけを信じなければならない。身体は健康だと言われる。90パーセントはそう思っている。そして、10パーセントは残ったまま……誰も私からそれを取り上げることはできないのです。だから……そこに置いておくんです。医療の中には、私たちがまだ解明していない部分があるかもしれません。

このように「スイッチを切り替えられた」としても不確実性が残存し、経過の中で新たな症状や所見、また生活への甚大なる影響が出現する可能性がある。不確実性を患者と共有しながら、「〇〇となったら問題かもしれない」というRed Flagsを立てながら継続性を持って経過を観察する必要があるだろう。

最後に

PSS患者の”真っ暗闇を僅かな街灯の中歩くような不安と恐怖に満ちた旅”が不確実性・行き詰まり・ケアの分断から形成されている事を述べた後に、GPとしての対応について考察した。
積極的に専門医と協働しながら患者の”診断の旅”を支え、旅を締めくくり症状に対処するように「スイッチを切り替える」際には、GP自身も不確実性を飲み込み、継続性のある関係の中で患者の抱える症状を責任を持って抱え、患者と足並みを揃えて、支持的環境を提供することが大切であり、PSSに深刻な影響を受けている患者の支持的ケアのニーズを満たすことになるだろう。

参考文献

1)Barends H, Botman F, Walstock E, Dessel NC, van der Wouden JC, Olde Hartman T, Dekker J, van der Horst HE. Lost in fragmentation – care coordination when somatic symptoms persist: a qualitative study of patients’ experiences. Br J Gen Pract. 2022 Oct 27;72(724):e790-e798. doi: 10.3399/BJGP.2021.0566. PMID: 36127154.
2)Shivji NA, Geraghty AW, Birkinshaw H, Pincus T, Johnson H, Little P, Moore M, Stuart B, Chew-Graham CA. Supporting people with pain-related distress in primary care consultations: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2022 Oct 27;72(724):e825-e833. doi: 10.3399/BJGP.2022.0120. PMID: 35940885.

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