一般的な臨床推論は、訴えを『医学的主訴』に変換して始まる。しかし、プライマリ・ケア領域では、『医学的主訴』に変換できないことも多い。Donner-Banzhoffらが提唱したinductive foragingによる患者中心のアプローチを紹介する。
帰納的採集〜患者中心のアプローチ〜
「無限」の空間
・Donner-Banzhoffらは、プライマリ・ケアでの臨床推論においては『無限』の問題空間があると提言した。
・何が問題かもよくわからない『無限』の問題空間の中で、プライオリティの高い問題を抽出しないといけない。
帰納的採集(inductive foraging)
・家庭医は、「体調が悪い、頭が痛い」と言われても、主訴を「頭痛」に変換して、『仮設演繹的モデル』に移る前に、表面的な質問+身体診察をしながら、「何が問題なのか」に関するヒントを患者と共同して探索する。
・そのプロセスを帰納的採集(inductive foraging)と名付けた。
帰納的採集(inductive foraging)①患者が自分の症状を説明するように促す。②患者は、自発的に更なる症状や自身の解釈、懸念事項について言及する。③患者は、異常で関連性のある所見(症状)を示す問題空間を提供する。④問題空間を共に移動しながら、協同して小さな仮説を立て、その仮説の周りを簡単にチェックし、更に次の採集のために移動し、小さな仮説を更に立てる。⑤問題収集のプロセス中で、患者が自分の状態に対して「振り返り」が進み、深堀りをするべき「大切な問題空間」が語られる。⑥その段階で、「大切な問題空間」に対して『仮設演繹型』の思考を発動して、疾患をグループ化し(胃のもやもや感など)、Red Flagsを想定した上で、直接的な質問によって探索する(triggered routines)
帰納的採集は、ミルクボーイ風?
この帰納的採取の過程は、ミルクボーの漫才に似ていると考察する。ミルクボーイのネタ『コーンフレーク』を例に、帰納的採集の理解を深めたい。
未分化な問題の発生
「いやー、オカンがな好きな朝食あるっていうんやけど名前忘れたらしいねん」
①患者が自分の症状を説明するように促す。
「ちょっと一緒に考えてあげるから、どんな特徴があるのかおしえてみてよー」
②患者は、自発的に更なる症状や自身の解釈、懸念事項について言及する。
「あの、カリカリしててな、牛乳かけて食べるやつや」
③患者は、異常で関連性のある所見(症状)を示す問題空間を提供する。
「その特徴はコーンフレークやないかい」
④問題空間を共に移動しながら、協同して小さな仮説を立て、仮説を簡単にチェックし、更に次の採集のために移動し、小さな仮説を立てる。
「コーンフレークか、、そうやと思ったんやけどな、オカンが言うにはジャンルでいうたら中華やっていうねん」
「ほなコーンフレークちゃうやないかい。他に特徴言ってなかった?」
「そういえば、オカンが言うには、人生最後がコーンフレークでも良いって言うねんな」
「ほなコーンフレークと違うやないかい」
⑤問題収集のプロセス中で、患者が自分の状態に対して「振り返り」が進み、深堀りをするべき「大切な問題空間」が語られる。
「ほんでな、オトンが言うにはな、、」
「オトン??」
⑥その段階で、「大切な問題空間」に対して『仮設演繹的モデル』の思考を発動し、明確な仮説をたてず、直接的な質問によって探索する(triggered routines)
コメント
[…] 何が問題かわからない不確実な状態の中で、情報を集めるために理解すべき点があります。それは、『患者さん自身も情報不足である』ことです。医師は主に、患者さんに関する情報不足で『何が問題かわからない』状態になっています。一方で患者さんは、医学に関する情報不足で『何が問題かわからない』状態になっています。 つまり、『お互いが持っている情報の認識・共有不足』により何が問題かわからない状態となっているため、一緒に何が問題かを探っていく姿勢が求められます。一緒に何が問題なのか探っていく手法として、Donner-Banzhoffらが提案した帰納的採集が挙げられます。帰納的採集を通じて同定された『問題』に対して、仮説演繹法的モデルを発動し、臨床推論を行っていきます。 一方で、不確実な状態を理解するための鍵は、『情報不足』だけでは無いかもしれません。Hallらは、不確実な状態の原因を3つに分類しました。 技術的不確実性→医学知識や、予後や治療効果を適切に予測する情報の不足により生じるもの 人的不確実性→医師-患者関係(患者の意思や解釈を理解していないなど)から生じるもの 概念的不確実性→一般的な基準や過去の臨床経験を現実の患者に適応できないことから生じるもの 技術的不確実性は、Evidenceを調べたり、同僚や指導医に相談することで解決することあります。人的不確実性は、患者さんと対話を重ねることで対処していきます。概念的不確実性は対処が難しいですが、現在の状況が『なぜいつもと違うのか』を多職種で話し合うことでヒントが見つかるかもしれません。 これらの評価の上でも解決しようがない不確実性は抱えながら経過を見ることになります。不確実性を抱えることは、医師自身にもストレスがかかります。本当に重症疾患じゃないのか?本人家族は納得しているのか?紹介したほうがいいのか?など考えると、、モヤモヤしてきます。これらのモヤモヤに耐える能力をNegative capabilityと呼びます。 Negative capabilityを高めるコツは『仲間を集めること』です。不確実な状況を同僚やスタッフに共有することで気持ちが楽になります。また患者さんにも『分からない』ことを共有することが大切です。患者さんに『分からない』と打ち明けることはとても抵抗がありますが、分からないのは『未分化な問題』なので仕方が無いのです。『分からない』状況の中を患者さんと共に歩んでいく姿勢が大切です。 […]
[…] […]
[…] 自分の状態を「考える」ために家に帰ったとき、「そこにいる」人が必要である。 この「幅広い探索」と「反射的リスニング」の2つの過程は、〇〇らが提唱したの帰納的採集を行う上で促されうるだろう。 […]